20日、エストニアはロシアの戦闘機「ミグ31」3機が自国領空を侵犯した件で、加盟している軍事同盟「北大西洋条約機構(NATO)」の緊急会議を要請したと発表した。
エストニア政府によると、19日、ロシアの戦闘機は許可なく同国の空域に侵入し、バルト海東部フィンランド湾上空に合計12分間滞在した。
ロシアはエストニアの空域侵害を否定しているが、最近では、ポーランドやルーマニア(いずれもNATO加盟国)がロシアのドローンによる空域侵犯を報告しており、地域の緊張は高まっている。
緊急会議はNATOの第4条(加盟国は安全保障上の懸念を理事会に提起できる)に基づくもので、ポーランドも9月10日、ロシアのドローンが同国の空域に侵入したことを受け、同条に基づく協議を要請していた。
エストニアの東部はロシアと国境を接し、今年に入ってロシアが自国の空域を侵害したのは今回で5回目となるが、通常はこれほど長い時間の侵害ではなかったという。

エストニアの位置・タリンは首都(外務省ウェブサイトより、キャプチャー)
当局によると、ロシアの航空機は北東からエストニアの空域に侵入し、フィンランド湾上空でフィンランドの戦闘機に迎撃された。その後、エストニアに配備されたイタリアのF-35戦闘機がNATOの「バルト海空域警戒ミッション」の一環として出動し、ロシア機を空域外へと誘導した。
ロシア機は国際空域や他国の近くを飛ぶ場合に事前に出す飛行計画を提出しておらず、トランスポンダー(航空機が自分の位置や識別情報をレーダーに送信する装置)もオフの状態で、エストニア航空管制との双方向無線通信も行っていなかった。
一方、ロシア国防省は、これらの航空機は「定期飛行であり、国際航空法規を厳格に遵守しており、他国の国境を侵犯していない」とし、「客観的監視によって確認された」と主張している。
改めて、NATOの基礎を見てみたい。
NATOの結成はいつ?
1949年、ワシントンDCで12カ国によって結成された軍事同盟。ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、アイスランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、英国、米国がそのメンバーだった。現在は欧州と北米にまたがる32カ国。

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目的は?
主な目的は、旧ソビエト連邦(ロシアを含む共産主義共和国のグループ)による欧州での拡張を阻止すること。
軍隊は?派兵の歴史は?
NATOは独自の軍隊を持たない。いずれかの加盟国が攻撃された場合、他の加盟国が防衛に協力する。
しかし、加盟国での紛争以外でも、危機に対応して集団的な軍事行動をとる場合がある。1990年代の旧ユーゴスラビア紛争では、国連を支援する形で介入した。軍事計画の調整や合同軍事演習も実施している。
第5条と第4条とは
NATO条約の第5条は、NATOの核心的な原則の一つ。加盟国の一つまたは複数に対する武力攻撃は、全加盟国に対する攻撃とみなされる、とする内容。
他の加盟国は「北大西洋地域の安全を回復・維持するために必要と判断するあらゆる行動、武力の行使も含む」をとることができる。
ただし、この保証は、外国にある基地や同盟地域外の領土には適用されない。
第4条の下、加盟国はあらゆる安全保障上の懸念をNATOの主要な政治意思決定機関である北大西洋理事会に提起することができる。今回のエストニアによる緊急会議開催の要請はこれに該当する。
NATO創設以来、第4条はこれまでに7回発動されている。
加盟国の数は?
現在は設立当初の12カ国に加え、後に加盟した20カ国が加わって32カ国に。
1991年のソ連崩壊後、アルバニア、ブルガリア、チェコ共和国、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキアなど多くの東欧諸国が加盟した。
日本は加盟国ではないが「パートナー国」という位置づけである。昨年7月には、岸田首相(当時)がNATO首脳会合のパートナーセッションに出席した。
ロシアと国境を接するフィンランドは、2023年4月に加盟し、スウェーデンは2024年3月に加盟。ウクライナ戦争の勃発がきっかけだ。1990年代以降、西欧+米国の軍事同盟が東側に拡大している。
ウクライナは加盟申請中の3カ国(ほかはボスニア・ヘルツェゴビナとグルジア)のうちの1つである。
加盟国は防衛費にどれくらい支出しているか
NATO加盟国は国内総生産(GDP)の2%を防衛費として支出することが期待されている。
2024年、米国防衛費は9350億ドル(約138兆円)で、GDPの3.2%にあたる。NATOの他の加盟国の合計防衛費のほぼ2倍だ。最新の推計によると、2024年には9か国が2%の目標を達成できなかった。スペインは最も少なく、GDPの1.24%。
2035年までに各加盟国のGDPの3.5%を中核的な防衛費にし、さらに最大1.5%を広範な安全保障インフラに支出することが求められている。
なぜウクライナは加盟していないのか?
まず、ロシアが反対していることが挙げられる。西側の軍事同盟の東方拡大はロシアにとっては脅威となる。1999年にポーランド・チェコ・ハンガリーが、2004年にバルト3国などが正式に加盟するなど、東方拡大が進み、ロシアでは警戒感が強まった。プーチン大統領は東方拡大がロシアの勢力圏を侵すものと見ている。
NATO指導部は、ウクライナの加盟でロシアが欧州の安全保障を脅かす軍事行動に出ることを恐れた。
また、汚職が根深いウクライナの政治体制が、NATOが求める民主主義体制の基準を満たしていないと見られている。2008年、NATOはウクライナが最終的に加盟する可能性があると述べている。
ウクライナ戦争の勃発後、ウクライナのゼレンスキー大統領はウクライナのNATO加盟の早期化を求めたが、NATO指導部は戦争が終結するまでは不可能と伝えた。
今年2月12日、ヘグセス米国防長官はウクライナの加盟が現実的ではないと述べて、ウクライナを失望させた。スウェーデンのジョンソン国防相は、加盟の可能性は「ゼロではない」と主張したが、今のところ、凍結中だ。
それでも、NATOはウクライナ支援として、ウクライナ軍の組織改革の支援や訓練を通した人材育成、加盟国による兵器の供与などを行っている。
ドイツのキール・インスティチュートの調査によると、2022年2月から今年6月までの間に、米国はウクライナに646億ユーロ(約11兆円)の軍事支援を提供している。同時期、EU及び英国、ノルウェー、スイス、アイスランドなどによる支援額は798億ユーロ(約13兆円)に上った。
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編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2025年9月23日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。







