沈黙の資産、金(ゴールド)が今、なぜ、暴騰しているのか?

最近のマネーマーケットで囃されているテーマはAI関連で、一時沈静化していたのに再び祭り状態になっているようです。本日のテーマとちょっと離れますが、投資家の目線として半導体業界投資の直球勝負するならエヌビディアのような企業が良いのでしょう。今般、オープンAIともディールが成立したようですが、私が注目するのはAI産業のインフラであります。例えばデータセンターを作るにしてもその電力供給をどうするのか、ここにはスポットがあまり当たっていません。

私が投資するある電力供給に絡む銘柄の株価はこの2年で4倍ぐらいになっています。投資の秘訣の一つに産業のメインテーマがスムーズに成長するためにどのような周辺産業とインフラが必要なのか考えるとそこに案外投資のチャンスがあったりするものなのです。

さて、日経平均も連日高値をつけている中で案外、買われる銘柄とそうではない銘柄の濃淡がハッキリしていると思います。つまりすべての投資家が儲けているわけではなく優勝劣敗が明白になっていると見ています。

ではお前はAI関連以外にどこがいけると思うのか、と聞かれたら金(ゴールド)と申しげます。お前は以前、「金はいったん売りといったではないか」という方もいると思いますが、あれは短期の調整という意味です。よって調整完了後に私はすぐに買っています。私は合わせて銀相場も面白い、と述べました。事実、銀採掘会社の株をそれなりに購入しています。

金。好きな人は好きなのですが、興味ない人には「単なる石っころだろう」という評価をされる方もいます。ある博学な方で「あんなもの、金利もつかないし、それを売り買いする意味が分からない」とおっしゃった方がいましたが、別にすべての方に興味もをってもらうつもりはないのです。バフェット氏がテック株にはあまり触手が伸びなかったのにある時、何を血迷ったか、アップルを買い始めたと思ったらいつの間にか同社株がバークシャー社の主たるポートフォリオに成り代わっていたのはある意味ジョークに近いとも言えます。人の考え方など案外ぽろっと変化するものなのです。

私が金を「沈黙の資産」と題したのは確かに石っころなのでそれがどうこうなるものではないという意味です。銀なら6割ぐらいは工業用で使いますが、金の工業用途はせいぜい1割程度。身に着けて高貴な気分にさせるダイヤモンドのような楽しみもありません。本当に沈黙の資産である金が今、なぜ、暴騰しているのでしょうか?

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極端で究極的な考えを述べると「ドルの代替の一翼を担う」ということだと考えています。ご承知の通り、基軸通貨はかつては英国のポンドでした。それが大戦の際に米ドルにバトンタッチしました。では米ドルの基軸通貨としての寿命は何時だったのか、これは様々な見方があるのですが、1つの見方はドル価値の下落とプラザ合意による為替安定化の時点で本質的にはバトンタッチすべきだったと考えてもおかしくはなかったと思います。故にあの頃、国際金融の世界では円の国際化の議論が盛んになり、ドルの次は円などと持てはやされたのです。もちろん、それは様々な理由で実現していません。その後、巨大なユーロ圏ができたのですが、ユーロと米ドルによる二大巨頭体制もできませんでした。

とすれば今のドル基軸は私から見れば惰性のようなもので、それ故に近年、様々なドル代替案が出ては消え、を繰り返しているわけです。たとえばIMFの特別引き出し権(SDR)を応用した通貨バスケットは一案だと思うし、世銀が新たなバスケット創設案を出し、その骨格資産は金も含まれていたこともあります。まさか中国元に成り代わる訳はないので次の基軸通貨案は正直、暗礁に乗り上げているとも言えるのです。

もう一つの読みにくいファクターがデジタル通貨であります。特にデジタル通貨は新興国での普及が急速に進んでおり、カンボジアではもはや現金が流通しにくくなっているとされます。読めないのは理論と実態の相違であります。新興国では闇ドルと為替レートの不安定化が付きまとってきましたが、それは思惑が伴うために一定の振れ幅が生じるとも言えるのです。仮にデジタル通貨でほぼ固定してしまえば、投機的なドル需要が起こりうるのか、これが私には疑問なのです。

基軸通貨ドルというのは米国内での流通というより世界のマネーの血液だと考えてよいでしょう。その血液循環がスローダウンするとすればドルの価値をサポートしにくくなるシナリオは当然あり得ます。また中国を中心とするもう一つのグループが金融の枠組みにおいてアンチドルのポジションにあるわけで世界共通認識で頼れる金色の石っころは当然の選択肢になるわけです。

私は以前から「金の妥当価格などないが唯一、採掘価格を下回ることはない」と申し上げてきました。そうしたところ、最近中国金採掘最大手のCEOが「価格には非常に強い自信がある。上限はないと考える。(足元が)すでにピークだと思ったら投資機会を逸することになる」(日経)と述べていたので私も味方ができたとホッとしました。

大雑把な話ですが、金は世の中に現在20トン存在します。うち約1/3が世界各国の中央銀行で所有されており、そのうち1/5がニューヨークの金庫に保管されています。金の採掘可能限界は約6万トン、現在年に3000トンずつ採掘されているので計算上20年で掘りつくすことになります。(実際にはそんなに短いわけではないです。)これではビットコインとどっこいどっこいとも言えます。

私が銀にシフトしたのは金の採掘限界を迎えればまだ採掘が可能な銀にシフトするのはナチュラルだと考えているからです。また金の価格が上昇すれば銀の価格も上昇するので超長期的な資産形成として私は価値を見出しているのです。あくまでも個人の見方ですがね。

一つ言えることは中央銀行はよほどのことがない限り金は売り出さないという点です。ということは株式市場でいう安定株主であり、市場の希薄性が強調されれば金の価格は非常にボラティリティが高まることも考えられます。ひと昔前にはあり得なかった事態だとも言えそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月29日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。