20代は100万円で株より経験を買いなさい

黒坂岳央です。

記事や動画、SNSでは「若い頃から積み立てれば複利がすごい!」といわれ、「いかに早い段階で投資を開始するかで人生の勝敗が決まる」といった意見を見る。本当だろうか?

確かにお金を増やすということだけ見れば、一見正しい意見に思える。手元の100万円を年利5%で運用すれば、30年後に432万円と4倍以上に成長する。

しかし、筆者はそうは思わない。この意見は「若い頃の感受性、経験の価値の複利」を見落としているからだ。さらに投資と違って、若い頃に取り逃がすと一生取り戻せないものは多すぎる。

若い頃は株より経験値を買った方が良いだろう。

koumaru/iStock

資産運用で得られる「資産」の価値と限界

長期インデックス投資が報われることは、歴史が証明している。若い頃から時間を味方につけるメリットは計り知れない。

だが、資産運用で得られるリターンは世間で思われているほど、人生を変える力はないと思っている。「本質的に」得られるものは「資産(お金)」だけだ。

細かいことをいえばトレード技術、景況感に敏感になるとか、政治経済に関心を持つといった意見もあるだろう。しかし、それらは副次的要素に過ぎず、「政治に詳しくなりたいから投資を始める」という人はいない。

もちろん投資に否定的な意図はない。自分も投資をしているし、投資情報発信者の意見を大変参考にさせてもらっている。ここで言いたいのは「投資は人生を変える魔法などではなく、単にお金を得る一つの手段に過ぎない」という本質である。

仕事でもお金は作れる

そしてお金は仕事でも作ることができる。どちらかといえば資産運用より仕事で作る方が良いと思える点は少なくない。投資がダメとはいっていない。あくまで「仕事>投資」という優先順位の話だ。

投資はお金しか得られるものはない一方、仕事は違う。仕事の技術、尊敬する上司や同僚との関わり、仕事をする中での実績、経験、知名度、そして思い出など、あまりにも多すぎる。これらは全て、年齢を重ねても枯渇することのない、非金銭的な資産となる。そして良い仕事に出会うと「お金のため」という感覚が副次的になることはあり得る。ここが投資との最大の違いだ。

筆者自身、仕事を通じて会社員時代に尊敬する上司や妻との出会い、外国人との共働経験、独立後のビジネスチャンスや、素晴らしいお客さんとの出会いなど、お金以上に価値が高いものを仕事を通じて得てきた。今やっている仕事は、もはやお金を得る目的は半分以下で、好きで自分のためにやっている部分が大きい。この記事執筆もそうだ。

さらに一般的には「r>g」ばかりが取り沙汰されるが、多くの人にとってはこれは当てはまらないことは多い。毎月少額投資を長期で積み立てるより、思い切ってスキルアップして収入を増やせば「r<g」の方が実現は現実的だ。実際、少額投資からのリターンより、転職して年収アップする方が圧倒的に大きいという人もいるだろう。「r>g」は元金と入金力が大きい富裕層に限定した話だ。

たとえば独立して会社員の年収を月収で安定的に稼ぐ人はいくらでもいる。極論、起業して数年で一生分を稼ぐ人もいる。投資は収入を増やした後にすれば最も合理的である。まず、仕事で元金や入金力を高めてその後に投資をする方が良いだろう。

若い頃の価値はお金では買えない

むしろ、投資よりも人生経験を集めることの方が遥かに大きな価値がある。なぜなら資産は投資や仕事でその気になれば何歳でも増やせるが、若い頃の経験はお金では二度と買うことができないからである。

10代、20代でなければできないこと、感じ取ることができないことはあまりにも多い。特に恋愛や海外を旅して回るなどの経験には若さが必須で、年齢とともに機会が失われる。

たとえば中高年から結婚をしたいと思っても、お金だけでは解決しない現実がある。「不可能」とまでは思わないが、現実として40代以降だと1%前後だ(国立社会保障・人口問題研究所の調査)。子供を持てる確率はさらに低い(現在、婚活を頑張っている人を否定する意図はまったくない。あくまで統計の話だ)。

そうなれば、どれだけ大金を積んでも、永遠に解消できない不治の心の病となりえる。資産は時間で取り戻せるが、失われた若さは二度と戻らない。若い頃の経験の代わりにお金を追求しすぎた結果、青春コンプレックスをこじらせる中高年はそれなりに見てきた。後から悔やんでももうお金で買うことは出来ないのだ。

余剰資金でコツコツ投資は非常に素晴らしいことだが、若い頃にしかできない経験をケチっての資産形成は非常にもったいないと個人的に思う。

「投資は余剰資金で」という有名な話は、「破産しないため」というより「早く始めすぎないため」と筆者は解釈している。

投資はあまりにも過大評価されている。確かに大金を持つことは素晴らしい。だが年を取ってお金だけあっても、意欲と体力が衰えれば欲しいものややりたいことが消えるので、主観的お金の価値はインフレ以上に減衰が速い。投資ばかりに夢中になっている場合ではないと思うのだ。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。