無人機が欧州の領空を制圧する時

アルフレッド・ノーベル(1833年~96年)の名をご存知だろう。10月6日から始まる週は「ノーベル賞ウイーク」と呼ばれ、ノーベルの名前を冠した平和賞や物理学賞などが授与される。候補者に名前が挙がっている学者や政治家、関係者、メディアはその行方を注視しているところだ。ちなみに、ノーベル賞の発表は、10月6日の生理学・医学賞からスタートし、 物理学賞は7日、化学賞は8日、文学賞は9日、平和賞は10日、そして経済学賞は13日となっている。

アルフレッド・ノーベル Wikipediaより

ところで、スウェーデンの化学者、発明家、実業家だったノーベルはダイナマイトの開発で巨万の富を築いたことから、「ダイナマイト王」と呼ばれた一方、一部では「死の商人」と蔑視されていたこともあって、その巨額の遺産を世界の各分野で平和に貢献した人物に賞金を授与する「ノーベル賞」の創設を考え出した、という話は有名だ。

ダイナマイトは鉱山の採掘などに役立つ一方、戦争では大量の兵士を殺害出来る武器となる。ノーベルは前者を目標にダイナマイトを発明したのか、後者を前提にダイナマイトを発明したのかは定かではないが、人間が考え、発明したものは本人の意思とは関係なく、2重目的、デュアル・ユースだ。鉱山採掘用と戦争時の大量破壊兵器といった具合だ。

ウクライナ戦争の戦場での主人公はもはや戦車や大砲ではなく、無人機だ。対空防衛システムに感知されにくい一方、製造価格は圧倒的に安価だ。最近の無人機は中距離ミサイル、巡航ミサイルにも負けない破壊力を有する。というわけで、戦争の当事国のロシアとウクライナばかりか、イラン、北朝鮮をはじめ、世界各地で無人機が製造され出している。

プーチン大統領の「ハイブリッド攻撃」の効果は大きい? クレムリンHPより

デンマーク、エストニア、ルーマニアで無人機が空港の上空で発見され、通常の民間航空機が離着陸できなくなった、という不祥事が起きている。ドイツのミュンヘン空港でも無人機が姿を現したばかりだ。複数の無人機の中で2m以上の幅のある大型無人機などが見つかっていることから、「民間のドローン愛好家の仕業ではなく、背後には国が暗躍しているはずだ」として、西側軍事専門家は欧州の飛行安全の混乱を狙ったロシア側のハイブリッド攻撃と受け取っている。

軍人は実験を経て合格した兵器しか実戦には使用しない。その意味で、ウクライナ戦争は表現は良くないが、無人機の開発にとって絶好の実験場となったわけだ。無人機は今日、短期間で戦争に不可欠な兵器となった。

ダイナマイト、そして無人機、いずれも発明、開発当初は平和的目的だったが、いつの間にか軍用目的で大きな役割を果たすものとなっている。核エネルギーの平和目的を促進する目的で設立された国際原子力機関(IAEA)は今日、イランや北朝鮮の核査察活動を監視する仕事で忙しい、といった具合だ。

兵力不足を解決し、人的犠牲を最小限に防ぐ狙いもあって、無人機、ロボット兵器が今後、戦場で益々重要な役割を果たすことになるだろう。戦争で無人機が主要な戦争の武器となることで戦争の仕方、戦略に変化が出てくることは必至だ。具体的には、戦争はより残虐に、非人道的になっていくのではないか。そしてその最大の犠牲者は人間だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。