高市早苗新総裁の掲げる「責任ある積極財政」は、実際にはバラマキと減税を組み合わせた危うい経済運営である。物価上昇と財政赤字が進む中での拡張政策は、短期的な人気取りにはなるが、長期的には財政の持続性と通貨の信認を損ねるリスクが大きい。高市政権の経済構想は、「強い日本」を唱えながら、経済の土台を脆くする危険をはらんでいる。
- 積極財政と減税の同時進行
高市氏はガソリン・軽油の暫定税率廃止、自動車税の停止、赤字企業の賃上げ支援、所得税基礎控除の引き上げなど、歳出と減税を同時に拡大する政策を打ち出した。だが、インフレ下での減税は総需要を刺激し、さらなる物価上昇を引き起こす懸念が強い。 - 財源なきバラマキ
財源として税収上振れを想定しているが、不足分は赤字国債で賄う姿勢を容認。これは「財政健全化」を事実上棚上げにするものであり、国債市場の信頼を損なう可能性がある。金融市場では早くも「日本売り」への警戒感が強まっている。 - 理論的支柱の危うさ
高市氏を支える「日本に財政問題は存在しない」という主張は、国際的な経済常識から乖離している。現実経済に即した政策論としては脆弱である。 - 社会保障の拡張と「大きな政府」志向
高市氏は診療・介護報酬の前倒し引き上げや老人福祉の拡充を掲げるなど、支出拡大に傾いている。歳出抑制や構造改革を掲げたサッチャー型の「小さな政府」とは正反対であり、若年層に負担を押しつける構造を強化する懸念がある。 - 日米関係と対米投資のリスク
高市氏はトランプ政権との関税合意を維持し、4年間で80兆円規模の対米投資を続ける方針を示した。これは内需を削り、産業空洞化を進める危険があり、経済の自立性をさらに低下させる。 - 市場の反応とリスクの顕在化
短期的には円安・株高の期待が高まるものの、超長期金利の上昇や国債入札の不調が懸念されている。積極財政によるマネー膨張が続けば、国債バブル崩壊や急激な通貨下落を招くおそれも否定できない。 - 政治的背景とポピュリズム化
高市氏の政策は「国民の不安を希望に変える」と謳うが、実際には右派的なポピュリズムと財政拡張が結びついた政治ショーの側面が強い。国民の人気取りに走る一方で、持続的な経済構造改革は後退している。
高市政権の経済政策は、減税と積極財政を柱とする拡張的な路線であり、物価高や賃上げ遅れへの対応を重視している。一方で、インフレ局面での財政拡張は物価上昇や財政赤字の拡大を招く可能性が高く、市場や国際的な信認の維持が課題となる。高市政権が掲げる「責任ある積極財政」をどの程度、現実的な政策運営へと落とし込めるかが、日本経済の安定と持続性を左右することになる。

高市早苗氏インスタグラムより






