高市政権の前途多難:公明離脱と石破派造反の危機

尾藤 克之

自民党HPより

2025年10月、自民党総裁選で高市早苗氏が勝利し、日本初の女性首相誕生が確実となった。しかし、その門出は前途多難というほかない。衆参で少数与党という厳しい現実に加え、連立を組む公明党が離脱を示唆する異例の事態に直面している。

公明党の斉藤鉄夫代表は高市氏との会談後、「支持者から大きな不安がある。その解消なくして連立政権はない」と述べ、事実上の連立離脱警告を発した。政治とカネ、靖国参拝、外国人との共生という三つの懸念事項を挙げ、「平和の党」として保守色の強い高市氏との政策的距離感を鮮明にした。

政治評論家の田崎史郎氏は「公明党への愛情がまったくないのがこの政権」と指摘し、高市氏の党役員人事に公明党とのパイプ役が皆無であることを問題視した。麻生派中心の「勝ち組一色人事」は党内保守派の結束を図る一方で、公明党を軽視したとの批判を招いている。

もし公明党が連立を離脱すれば、自民党は191議席のみとなり、過半数233議席まで42議席も不足する。ここで浮上するのが、日本維新の会と国民民主党との連携だ。

維新の吉村洋文代表は「正式に打診があれば協議するのは当然だ」と前向きな姿勢を示している。「副首都構想」の実現を条件に連立入りを検討しており、外交・安全保障での親和性も高い。

注目すべきは国民民主党の玉木雄一郎代表の姿勢変化だ。玉木氏は「石破政権と組むことはありえない」と明言していたが、高市政権に対してはそのような拒否発言をしていない。むしろ高市氏が国民民主党を重視する姿勢の表している。

皮肉にも、石破政権時代に距離を置いていた国民民主党の方が、高市政権にとっては連携しやすいパートナーとなる可能性がある。経済政策での親和性も高く、「年収の壁」見直しなど具体的な政策協議も進めやすい。

現実的な連立シナリオは以下の三つだ

第一に、公明党を説得し、従来の自公連立を維持した上で維新を加える「自公維」連立。これが最も安定的だが、公明党が靖国参拝や外国人政策で譲歩するかが焦点となる。

第二に、公明党が離脱した場合の「自維国」三党連立。維新と国民民主の両党が加われば過半数を確保できるが、両党の政策調整に時間を要する。

第三に、維新のみとの「自公維」または「自維」連立だが、いずれも議席数が微妙で、国民民主の協力が不可欠となる。

さらに高市政権を脅かすのが、党内の不協和音だ。保守派の間では、石破茂氏の「裏切りの歴史」が語り継がれている。

1981年の田中角栄への恩義無視、1993年の自民党離党、小沢一郎との訣別、2008年の麻生おろし、安倍政権時代の党内批判――。過去の行動パターンから、石破派が左派勢力や野党と連携して造反に転じるリスクは現実的だ。

最も神経を使うべきが、小泉進次郎氏の処遇だ

総裁選で決選投票まで進み、164票もの支持を集めた小泉氏は、単なる「敗者」ではない。若手・中堅議員への影響力は絶大で、メディアでの知名度と発信力も群を抜く。この小泉氏を冷遇すれば、高市政権は深刻な党内亀裂に直面する。

特に危険なのは、小泉氏が石破派と手を組むケースだ。小泉氏の若手票と石破派の票が合わされば、数十票規模の造反グループが生まれる。衆議院で自民党が191議席しかない状況では、わずか20~30票の造反でも政権は致命傷を負う。首班指名で野党候補に票が流れれば、高市氏は首相になれない可能性すらある。

閣僚人事で小泉氏を重要ポストに起用し、その支持層にも配慮を示すことは、単なる「論功行賞」ではない。党内崩壊を防ぐための生命線となる。目に見える重要ポストを与え、政権の顔としての役割を担わせることで、不満を封じ込める必要がある。

高市政権の命運は、三つの交渉にかかっている。公明党をどこまで説得できるか。維新・国民民主とどう連携するか。そして党内、特に石破派と小泉支持層をどう取り込むか。綱渡りの政権運営が始まる。高市新総裁の真価が問われるのは、まさにこれからである。

尾藤 克之(コラムニスト、著述家)

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