厚生労働省が発表した8月の実質賃金は8カ月連続でマイナスとなり、物価上昇に賃金が追いつかない状態が続いている。名目賃金は上がっているが、実質所得は減少し、生活水準の改善には結びついていない。さらに、政府・野党が掲げる減税や給付策は、物価高を助長しかねない「逆効果の政策」となっている。
- 実質賃金8カ月連続マイナス
8月の実質賃金は前年同月比1.4%減で、8カ月連続のマイナス。名目賃金は1.5%増にとどまり、物価上昇率(3.1%)に追いつかず、実質所得が減少した。 - 名目賃金上昇はインフレを悪化させる
物価上昇に合わせて名目賃金を引き上げると、企業はコストを価格転嫁し、さらなる物価上昇を招く。賃金上昇→物価上昇の悪循環(賃金・物価スパイラル)に陥る危険がある。 - バラマキ政策は「選挙対策」であり経済政策ではない
石破政権の給付金や国民民主の減税策は、物価を抑える需給調節ではなく「金で票を買う」政治的手段にすぎない。今のように需給ギャップがプラスで供給制約がある中では、財政支出の拡大はインフレを加速させ、実質賃金をさらに押し下げる。 - 本来、減税は需要不足のときに行う政策
景気後退や不完全雇用の時期には減税が有効だが、インフレ(需要超過)の今は逆効果になる。需要をさらに刺激すれば物価が上昇し、国民の購買力はますます低下する。 - 財政政策の限界
現在は金利が戻り、金融政策で需給調節が可能にもかかわらず、財政バラマキに頼るのは誤りだ。 - 円安と交易条件の悪化が賃金低下を招く
円の購買力平価は1ドル=100円前後だが、日銀の金融抑圧で利上げできず円が暴落。輸入価格の上昇で交易条件が悪化し、国内賃金は実質的にバブル期の半分に落ち込んでいる。 - 株高は「貨幣錯覚」にすぎない
インフレが進めば株価は名目上上がるが、実質的な豊かさは失われる。物価が2倍になれば日経平均は9万円になるが、それは単なる通貨価値の下落でしかない。
実質賃金の低下は単なる一時的な現象ではなく、構造的な経済歪みの結果である。「積極財政」や「減税競争」は景気刺激どころか、インフレを悪化させて庶民の生活を苦しめるだけだ。いま必要なのは、総需要を抑えて物価を安定させる政策であり、政治家がこの経済の基本原理を理解しない限り、実質賃金の回復は望めない。

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