ビジネスを震撼させる外交問題

今週、外交問題に端を発したビジネス問題が2件発生しました。1つはオランダ政府が中国資本の半導体会社を接収したことで中国が同社製半導体の出荷を止めたこと、2つ目はトランプ政権がロシアの二大石油会社と50%以上の支配権のある子会社との取引を禁じたことであります。双方、まだ一般社会には影響が出ていませんが、間もなくそれは目に見えた形になるかもしれません。

トランプ大統領と習近平国家主席 Wikipediaより

まず1つ目のオランダの半導体の問題です。中国資本のネクスペリア社は本社をオランダに置き、半導体製造の前工程をオランダで、後工程を主に中国で行い、中国製造分の出荷は中国から行っています。同社は最先端ではない汎用型の半導体メーカーで年間1100億個製造し、うち630億個を自動車産業向けに出荷しています。そのネクスペリア社がオランダ政府から経済安全保障上の重大なガバナンス違反があったとされ、同国の「物品供給法」というあまり適用されたことがない法律を盾に同社を接収してしまったのです。これが9月30日。これに中国政府が反発し、「それなら同製品を輸出禁止にしてやる」と売り言葉に買い言葉となったわけです。

困るのが同社製品を使っていた企業で特に自動車メーカーに影響が出ています。しょっぱなに悲鳴を上げたのがフォルクスワーゲン社でゴルフの生産を一時、止める見込みで欧州系自動車各社も軒並み影響を受けるほか、日本もトヨタ、ホンダをはじめ、各社に影響が出そうです。半導体そのものは他社でも作れる代物なのですが、認証取得と生産体制の確立のために数か月はかかるとされます。各社ネクスペリア製の半導体の在庫は少なく、一時的に自動車生産ができない企業も出てきそうです。

解決方法はオランダ政府と同社が一定の妥協点を見つけ、それを受けて中国政府の輸禁解除がなされるか、というまさに政府レベルでの胸算用とも言えるのです。さもなければネクスペリア社の半導体製造を他の企業で全部代替するしかありません。

2件目はトランプ政権によるロシア民間企業の石油事業への規制が引き起こす問題です。トランプ政権はロシア最大の石油会社で市場シェアが5割近くもあるロスネフチと第2位のルクオイルのアメリカ内の資産を凍結し、取引禁止としました。アメリカは広くこの制裁を西側諸国に支持ずるよう呼び掛けており、実際に欧州はそれに従う方向にあります。問題は中国とインドで、両国はそれら石油会社と継続取引をすることでアメリカ政府からの厳しい二次制裁を懸念し、代替策を練っているところであります。

中国の1-9月の原油の供給元は20%がロシアになっており、その代替先を見つけるのは容易ではありません。これを受けて何が起きるか、と言えば原油価格の暴騰であります。つい、1週間前まで原油市場に関するニュースは「だぶつき加減、原油価格は50ドル台半ばで先行きも下向き」でほぼ一致していました。ところがたったこれだけのニュースで本日の原油価格はNYマーカンタイル市場で5%以上上昇し、61ドル台後半まで吹きあがっています。

実はこの問題はもう少しあって、ロシア産原油は西側諸国の制裁の影響で輸出しにくい中、中国やインドが買うにあたり相当割引をしていたとされます。どのぐらい安いかは把握していませんが、それなりの価格で輸入できたものが通常価格になり更に原油の供給源がそう簡単に代替できるものではないので諸物価の高騰につながる問題があります。

たとえば当地バンクーバーには原油産出地からのパイプラインがあり、ここから原油がアジア方面に向けタンカーで出荷されていますが、その行先はほとんどが中国。カナダはオイルサンドで重質油なのでライトオイルに比べて従来から価格が安いのです。これがフル稼働しても追いつかない状態になると想像すれば我々バンクーバーに住む者にとっては原油産出国なのに馬鹿みたいに高いガソリン価格ということになるのです。

経済には経済の自律性があるというのが経済学で習ったことです。景気の循環などはその典型で、需要と供給がシーソーのように動きながら均衡点を探す、という仕組みが学術的に説明されているわけです。ところが上述の2例のように政府が思わぬ規制や制裁を加えればその仕組みは全く機能しなくなり、全く真逆の極端な動きすらすることになります。

一言で言えば「こんなはずじゃなかった」であります。

昔から政治による経済への影響はありました。70年代の石油ショックなどはその典型でしょう。しかし、あくまでもそれらは一時的でどうにかしのぐというのが今までの流れでした。ところが、ベッセント財務長官がいみじくもデカップリングという言葉を10日ぐらい前に発していましたが、近年のアメリカと西側諸国VS中国、ロシアなどBRICSの対立構図は恒常的、かつ解決がより難しくなってきているように感じられます。一方、経済については両陣営とも「いいところどり」をしたいので平時にはグローバルな取引が展開されているのです。そこでなにか事態が変われば各国政府機関はそれら経済の歯車のピンを何の抵抗もなく抜き取るのです。すると本来動くはずのベルトコンベアは動かず、経済という流れ作業は止まるのです。

これでは1年先の経済予想など全く無意味になってしまうのです。この対立関係をどう解消するのか、あるいは解消させずにそれぞれの陣営がそれぞれの陣営内だけの経済圏を形成するのか、という発想になってしまいます。

経済学者レベルからすれば「酷い時代になったものだ!」というのでしょう。ではこれは誰が悪いのか、といえば政治家であり政権の主導者たちでありますが、そこまでテンションが上がってしまう事態になったのは情報化とガバナンスの強化、そして自陣営への過度な肩入れなのではないかと察しております。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月24日の記事より転載させていただきました。

アバター画像
会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。