与野党に平等ですぐできる「定数削減」コロンブスの卵

現在、自民・維新で進めている定数削減案は、衆議院の定数465議席のうち、比例代表176議席を「約50議席削減」することで、全体の約1割(46〜47議席)を減らすというものである。

連立に合意した自民・維新 吉村・藤田両代表と高市総裁 維新の会SNSより

この裏の狙いは、自公連立を離れた公明党の反撃の基盤を崩そうということであり、また、次期総選挙で躍進が予想される参政党の躍進を止めようということだと見られても仕方ない。

そして、保守強硬派色が強い日本版CIA国家情報局の設置とか、安保関連3文書の改定前倒し、防衛装備品輸出ルールの撤廃、「スパイ防止法」制定、外国人対策など、やや拙速であるべきでない変革を強引に進める気らしい。

これまでは、公明党というブレーキ役が細かく必要性を精査し、改善案を出していたが、それが気に入らないらしい。また、憲法の改正の発議に必要な議院の三分の二の賛成を得ることを確実にしようというものでもあろう。

この案を強行したら、読売新聞社の試算によれば、自民党は9%、立憲民主党は6%、公明党は25%、維新は13%、共産党や公明党は67%も議席が減少するという。

比例のみの削減とすることについては、小選挙区の数を減らすと周知期間がいるためとしている。将来の小選挙区の定数削減も約束するだろうが、それはたとえば、2030年国勢調査の結果を見て行う区割り変更の一環ということになる。

2020年国勢調査をもとにしたときは、2022年6月の審議会勧告から約半年後の2022年12月28日に施行されたので、それに準じたものになる。ただし、臨時に2025年国勢調査の数字に基づいて実行すれば5年早くなり2027年12月だ。しかも、施行後3~5ヶ月程度の準備期間が望ましいとされる。

しかし、これでは与党に有利であまりにも恣意的である。そこで私は、ドイツやニュージーランドで行われている、比例代表の当選者を小選挙区での獲得議席が多い政党は少し減らす計算方法と併用することを提案したい。しばしば、「併用制」といわれているものだ。

つまり、小選挙区については、現在のままで選挙を行い当選者を決めるが、比例代表の当選者は、小選挙区の定数を減らした場合に比べて得をした政党の当選者からはその分を減らすという方法だ。

ドイツ語では「Personalisierte Verhältniswahl(個人化された比例代表制)」と呼ばれ、英語圏では Mixed Member Proportional system と訳され、有権者は「小選挙区候補への票」と「政党への比例票」の2票を投じる。

そしてこの二国では、比例票で政党ごとの「全体議席数」を決定し、小選挙区で得た議席を差し引いて比例名簿から補充する方式である。

ニュージーランドの選挙制度は、「混合比例代表制(Mixed Member Proportional:MMP)」と呼ばれ、有権者は政党票(Party Vote)と70の小選挙区票(Electorate Vote)を投じ、総議席数は政党票による比例代表で決定、不足分を政党票に従って分配する。ドイツでは比例票の分配は州ごとに行われる。

私の提案は、全面的ではないがこの制度の技術を取り入れ、比例代表の当選者の決定にあって、小選挙区で獲得しすぎた議席を比例代表での獲得議席から減らすというものだ。

たとえば、2024年の総選挙での近畿比例だと小選挙区で維新21、自民14、立民1、公明2、無所属4で41議席。もし、これを1割減すれば4議席減である。仮に同数の場合は大政党が先に引かれるとしたら、維新が3、自民1が本来減るべき数字だが、小選挙区はそのままにしているから削減できない。

今回の自民・維新案では比例の定員28のうち25%が減らされるので7議席減である。そうすると、前回の結果では、維新7、自民6、立民4、公明3、共産2、令和2、国民2、参政1、保守1なのだが、そのうち下位当選者である下から、令和、保守、維新、自民、立民、共産、維新が落選になる。

そこで私の提案は、さきほど小選挙区で一割削減しなかったがゆえに余計に獲得した、維新3、自民1の議席を比例の当選者数からいったん取り上げて、その代わりに、4議席、下位当選者に割り当ててはどうかということだ。そうすると次点は維新で、共産、立民、自民も繰り上がる。つまり野党が2増だ。

東京の場合だと小選挙区が立民15、自民11、公明1、無所属3だが、これが一割減であると2選挙区減なので、立民と自民が1議席ずつ過剰に獲得したことになる。一方、比例代表では定員19が5議席減になるので、下位から自民、立民、公明、自民、国民が落選となる。しかし、立民と自民がさきほどの過剰な一議席ずつを取り上げられて、その分は次点の国民(鳩山紀一郎だった)と自民が繰り上がるから、野党が1増になる。

総じて、11の比例代表のうち、野党が各比例区で一人たらず余計に救済されるイメージだ。まして、昨年の総選挙より自民党が強かった通常の総選挙の数字を当てはめれば、野党にもう少し多くの補正議席がもらえるはずだ。だいたい公明、参政、共産がそれぞれ2~3ずつ不利を現行案より是正できると思う。

この方式を「小選挙区・比例代表補正併用方式」と呼んでおく。野党側は政治資金規制の強化などからませて議論すればよいが、とりあえず建設的な与野党対話が実現するための方便としてはどうか。

ちなみに、この方式を定着させるのか、あるいは全面的な小選挙区の見直しと大胆な定数削減のときには解消するのかも議論の対象としたらよい。

*ドイツでは2023年までは、小選挙区で比例で得た以上の議席を得た場合、追加議席として認められ、結果、定数も上乗せされていたが、その措置は廃止され、現在は比例で票が伸びないと小選挙区の当選者も党の判断で議席を獲得できないこともある。

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