資産運用立国、ニッポン:岸田氏の資産運用立国を継承する高市首相

高市首相が、岸田氏が提唱した資産運用立国を継承すると報じられています。以前にも述べましたが、岸田氏の功績の一つとして新NISAを国民レベルの大ヒットにしたことは大きかったと思います。それ以降も日経平均がほぼ右肩上がりとなっており、損をしたという怨嗟の声があまり聞こえてこないことも幸いしているのでしょう。

高市早苗首相 首相官邸HPより

日銀資金循環統計によると25年6月末の家計部門の金融資産は2239兆円。日銀の資金循環統計とは家計、企業、政府部門間の資金の動きを3か月毎に発表し、国内のお金の動きを把握することができる貴重な統計であります。桁が大きすぎてよくわからないこの2239兆円。人口1億2千万人で割ると1866万円と出ます。これは思ったよりはるかに大きい金額です。但し昨年同期と比べるとわずか1.0%増、現金比率が50%もあるのも頂けません。

これはあくまでも平均であって多くの国民の感覚とは違うかもしれません。一人当たりの金融資産の中央値は1000万円を下回っていると思いますが、年齢次第であり、ひとくくりで論じられるものでもありません。ちなみに23年時点での世帯平均貯蓄は1900万円程度です。一方で1866万円は赤ん坊まで入れた数字であり、計算上夫婦だと2倍になると考えれば数年前に老後2000万円問題がありましたが、そろそろ見直さねばならないのではないかと思います。私が言う見直しとは老後に必要なお金は今の物価水準では2000万円の計算根拠と比べれば足りないだろうな、と同時に皆さんの懐具合がこの数年間でどこまで膨れたかを確認した方が良いという意味であります。(日銀資金循環統計からはあまり増えていない気はします。)

ちなみに一応申し上げておきますが、例の2000万円問題が噴出した時、私は明白に「それは個人の生活次第で足りる人も足りない人もいるから2000万円という仕切りをすることはナンセンス」と述べました。一方で尺度として知りたいという人もいるのでしょう。高齢者と言えども1年でいくら必要なのかわからない方もいらっしゃるし、いざという時の蓄えをいくらに設定すべきかこれまたわからないものなのです。

さて、資産運用立国の具現化のために日本成長戦略本部なるものが発足し、本部長は岸田氏であります。良い人事だと思います。この「日本成長戦略」ですが岸田氏が提唱した「新しい資本主義」を止めてこのキャッチに変えるということです。この成長戦略のうち、資産運用については資産運用の高度化が入っています。なんじゃらほい、と思いますが、アイディアの一つに24時間常時、1円ないし1株から株の売買ができる環境を作ることが盛り込まれそうです。

既にその準備は始まっており、証券会社間で様々な商品の開発が進んでいます。信託銀行が株式トークンを発行し、それを証券会社が介入してブロックチェーン技術を使いながら最小単位で24時間運用ができるという仕組みです。フィンテックの技術満載ということでしょう。相性としてはステーブルコインを使う方がサクサク行くと思います。その点では既に発行され始めたステーブルコインがどこかの時点で大ブレークして日本国内の決済にコインを使う可能性は大きいと思います。

日本は決済手段が多すぎてわかりにくいという声が出ています。もちろん、クレカとか現金が使えないわけではないので他の決済手段を知る必要もないといえばそうなのですが、私から見れば決済という利便性を大企業が顧客の囲い込み手段としたところが「違うよな」と思うのであります。

日本は垂直展開による支配構造を非常に好みます。楽天が無理をして携帯事業に参入したのもそれが理由でしたが、携帯事業が楽天全体のビジネスの拡大にどれだけ貢献したかよくわかりません。ちなみにステーブルコインが普及してもPayPayの決済は当面減らないでしょう。なぜならPayPayへの課金をステーブルコインで行うというプロセスとなるからです。これはデジタルネーティブの人はついて行けますが、そうではない人はback to cashとなる人もいるかもしれません。

資産運用。これは株式に限ったわけではなく、いろいろな種類があります。その流れの中で私が心配しているのは高利回りや確実な配当を謳った怪しげ投資が跋扈しないか、という点です。くれぐれも申し上げますが、世の中、甘い話はないのです。もしも今、8%のリターンを約束するという投資話があったらまずは疑ったほうが良いでしょう。アパート経営でも表面5-6%、実利3-4%程度です。

「みんなで大家さん」なんて典型的な騙し手口なのに少額でも大家になれるというキャッチにクラクラするのです。こんな話は80年代バブルの頃、いくらでもあったわけで私は怪しげな地上げ屋とか反社がうようよする世界で現実離れした不動産案件の実務担当者だったからこそ断言できるのです。

もう1つは「よく知るあの人が立ち上げた〇〇プロジェクトに投資しないか」という勧誘話。これも私が知る限り碌なものがないし、元金が返ってこないとか、訴訟に発展したものはいくつもあります。大した知り合いでもないのにちょっとイケメン社長さんの講演会や食事会などに招待され、非常に近い位置から「ここだけの話ですけれど…」と言われたら100万円ぐらいすぐ出してしまう「有閑マダム」ならぬ「勇敢マダム」が多いのもまた事実であります。資産運用のためにはまずはお金の勉強をした方がよさそうですね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月4日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。