人の居住地に出没する熊との戦いに忙しい日本の国民にとって、クリスマスシーズンの幕開けといっても別世界のことのように感じられるかもしれないが、キリスト教文化圏の欧州に住む人々は11月の声を聞けば、クリスマスシーズンの到来といった雰囲気に包まれる。そして欧州各地でクリスマス市場がオープンされる。

ウィーン市庁舎前広場のクリスマス市場を訪ねる人々(2024年11月16日、ウィーンで撮影)
音楽の都ウィーンで6日、シェーンブルン宮殿前の「名誉の中庭」のクリスマス市場が開幕される。宮殿中庭のクリスマスツリー前で「インペリアル・ライツ」と呼ばれる光の庭園がオープンし、宮殿庭園を巡る60~90分のツアーでは、バロック様式の芸術的な光のインスタレーションを鑑賞できる。
欧州最大のクリスマス市場と呼ばれるウィーン市庁舎前広場市場では14日、ルドヴィック市長を迎えオープンされる。市庁舎前広場には10月28日、チロル州のホープガルテンから重さ4.6トン、高さ28メートルのエゾ松の木が運ばれた。クリスマスの木には約2000個の照明が飾られることになっている。11月21日までにはウィーン市のクリスマス市場14ヶ所(合計911の屋台)すべてが一般公開されることになっている。
クリスマス市場では子供連れの夫婦や若いカップルが店のスタンド(屋台)を覗きながら、シナモンの香りを放つクーヘン(焼き菓子)やツリーの飾物を買ったり、クリスマス市場で欠かせない飲物プンシュ(ワインやラム酒に砂糖やシナモンを混ぜて暖かくした飲み物)を飲む。クリスマスシーズンの雰囲気は否が応でも盛り上がる。やはり、ウィーン市民はプンシュを飲まないではクリスマスを迎えられないのだ。
ところで、クリスマス市場に出店する屋台の数が数年前に比べ、減少する一方、クリスマス市場を今年は開かないところも出てきた。オーストリア日刊紙「OE24」は5日、「ショック、物価高がクリスマス市場を打撃」という派手な見出しで、「オーストリアや隣国ドイツでもクリスマス市場を開かなくなったところが出てきた」という。その原因は経済的な理由だ。物価高、屋台の場所代、電気代から諸経費、全てが高くなったからだ。
それだけではない。クリスマス市場の安全問題がある。欧州のテロ専門家は「クリスマス市場はイスラム過激テロ組織にとって格好の襲撃対象となる」と警告を発している。例えば、ドイツ東部のザクセン=アンハルト州の州都マクデブルク市(人口約24万人)で昨年12月20日、市の中心部で開かれているクリスマス市場に一台の車が突っ込み、多くの訪問客がひかれ、少なくとも4人(一人の子供を含む)が死亡、205人以上が負傷した。多くの市民たちが家族連れで市場を訪問していた。市場内はパニック状況となった。
また、2016年12月19日、首都ベルリン市中央部にある記念教会前のクリスマス市場に1台の大型トラックがライトを消して乱入し、市場にいた人々の中に突入しながら暴走し、13人が死亡、70人以上が重軽傷を負うという「トラック乱入テロ事件」が起きた。
オーストリアでは幸い、クリスマス市場を襲撃したテロ事件はこれまで発生していないが、市場に入る前に警備員が訪問者をチエックするなど、警備が厳しくなっている。また、ウィーン市庁舎前広場のクリスマス市場では路上から市場に大型トラックが侵入できないようにコンクリート製のポラードが設置されている、といった具合だ。
ドイツやオーストリアの国民経済はリセッション(景気後退)で、企業の倒産、失業者の増加が報じられる。新年への明るい見通しはなかなか視野に入らない。そのような中、多くの人々はクリスマスシーズンを懸命に享受しようと走り出す。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






