「ブルーカラービリオネア」現象は日本では起こらない

「ブルーカラービリオネア」という言葉がバズワードになっています。これはAI(人工知能)の普及によってホワイトカラーの稼ぐ機会が減少する一方で、ブルーカラーと呼ばれる肉体労働をする人たちが金持ちになるチャンスが膨らんでいる状況を指したものです。

アメリカではビッグテック企業を中心にホワイトカラーの人員削減が始まり、4年生の有名大学や大学院でMBAを取得したような高学歴な若者の就職難が問題になっています。金融やコンサルティングといった高収入が得られる会社が採用を控え、労働市場の需給がミスマッチになって高い授業料に見合った仕事が得られない時代になっているのです。

一方でAIにはできない技術者たちは「エッセンシャルワーカー」と呼ばれ、人材不足から今後雇用機会が広がり、賃金が上がっていくと予想されています。

金融のアナリストや弁護士のような知的と思われていた多くの仕事はAIに置き換えられても、配管工や修理工のような体を使う仕事は代替されることはありません。

アメリカのブルーカラーの仕事で今や賃金が最も高いのはエレベーターとエスカレーターの設置・修理工だそうです。年間所得は中間値で10万6580ドル(日本円で約1600万円)。日本とは単純比較できませんが高卒の労働者の賃金としては魅力的です。

このような世の中の変化を敏感に感じてアメリカでは高卒でも高賃金が得られる仕事を得ようとする人が増えているそうですが、日本でも同様のことが起こるのでしょうか?

日本でも長期的にはアメリカのような動きが出てくるかもしれませんが、その動きはずっと遅くなると思います。

まず日本ではブルーカラーの賃金高騰は起こっていませんし、硬直的な雇用関係からAIの普及による戦略的なリストラも企業側はなかなかできません。仕事のスタイルが変わりにくい雇用形態だからです。

また高収入になったとしても大卒の若者がブルーカラーの仕事に積極的に就こうとするとは思えません。多少給与所得が低くても体力的に楽なホワイトカラーの仕事を選ぶ人が多いはずです。

良くも悪くも変化を嫌い、時間をかけて変わっていく日本社会ではアメリカのようなダイナミックは労働市場の変化は起こりそうにありません。

アメリカの「ブルーカラービリオネア」現象が一過性のものなのか、それとも労働の概念を根本から変えてしまうものなのか?それはまだわかりません。

日本社会はアメリカの変化を見極めてから、少しずつ変わっていくのだと思います。

maruco/iStock


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年11月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。