ビジネスリーダーが陥る情報過多の罠

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経営者に会うたびに思うことがある。彼らはみんな疲れている。特に判断が必要な場面で、その疲労は極まる。

新規事業を始めるかどうか?
取引先を変えるかどうか?
人員配置をどうするか?

こういう時、経営者は何をするかというと、とにかくネットを見る。リサーチだと名付けて。

最初は理由がある。「情報が経営資源」なんて20年前から言われていて、それはそれで正しい。だから、業界レポート、競合の動向、顧客データ、SNSの声……全部集めようとする。気持ちはわかる。知らないよりは知った方がいい。

でも、そこからが問題だ。

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ある会社の経営者の話をしよう。彼は新規事業の判断で、3週間、毎日5時間以上ネットを見ていた。市場調査レポート、成功事例、失敗事例、コンサルタントの意見……。本人は真面目だった。むしろ、責任感があった。だから、最後まで情報を集めようとした。

結果? 判断できなかった。いや、判断したけど、その判断は「最初から決めていたことを支持する情報ばかり集めた結果」だった。つまり、3週間をかけた意味がない。いや、マイナスだ。疲れて、判断力は鈍ってるし。

これが「確証バイアス」という奴だ。自分に都合のいい情報だけ集めて、反対のことは見ない。でもね、普通の人間は大体これをやる。特に、決定権がある人間ほど。

脳科学の本で読んだけど、ネット情報を見続けるとドーパミンが出る。快感物質だ。で、その快感を求めてもっと見る。ギャンブルと同じ。タバコと同じ。

そのうち脳が疲れちゃう。前頭前野とか呼ばれる考える部分が、もう動かなくなる。すると、単純なミスが増えて、怒りっぽくなって、意欲も出ない。つまり、判断力が本当に必要な時に、脳は動かなくなっているわけだ。

話を戻すと、そこで大事になるのが「制限」だ。情報を集める時間を決める。ここ。2日、最大5時間とか。それ以上、絶対見ない。だから必要な情報に集中できる。そしてその後、チームで考える時間を作る。ちゃんと考える。

むしろ、制限時間を設けた方が、判断が良くなった。制限がない時代は、判断後にいつも後悔があった。「あの情報も見ておけば」とか。でも、制限時間を設けてから? むしろ、最初の直感と情報がまっすぐ繋がるようになった。

人間の判断なんて、そんなに複雑じゃない。必要な情報は、意外と少ない。あとは、その情報をどう考えるか。その「考える時間」がないから、判断が悪くなる。情報は邪魔になる。

これからの経営者に必要なのは、もう「いかに多く集めるか」じゃない。「いかに少なく、深く考えるか」だ。それができない奴は、AIに仕事を取られる。そういう時代だ。情報デトックス。地味だけど、多分、これが一番大事。

※ ここでは、本編のエピソードをコラムの形で編集し直しています。

尾藤 克之(コラムニスト、著述家)

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