数少ないビジネスチャンスを自ら手放す日本人

インバウンド観光客の増加を背景に規制緩和され拡大してきた民泊ビジネスですが、日本経済新聞電子版の報道では都市部を中心に各自治体で見直しの動きが広がり逆回転が始まったようです(図表も同紙から)。

その原因となっているのは近隣住民と宿泊客とのトラブルです。ルールを守らないゴミ出しや夜間の騒音等に対する苦情が自治体に殺到し、住民の圧力によって規制緩和の流れが止まってしまいました。

もしかしたら、住民の背後には民泊によって自らの事業が圧迫されるホテル・旅館業界からの「見えない力」が動いているのかもしれません。

民泊物件が観光客に提供されることによって、観光客には様々な宿泊の選択肢が生まれます。民泊は単にリーズナブルに宿泊したい人だけではなく、既存のホテルチェーンなどに飽き足らない個性的な宿泊施設に泊まりたいと思う人も集まっています。

特に外国人は日本の民家のような和風の宿泊施設に泊まることに強い関心があるはずです。

民泊規制によってこのような観光ニーズが満たされなくなり、来日客が減ってしまえばインバウンド需要にマイナスの影響が出てきます。

経済的に衰退していく日本に残された数少ない成長分野が観光ビジネスです。

元々国内のあちこちにまだマネタイズされていない素晴らしい観光資源が眠っています。また、日本の食文化は世界ナンバーワンと言っても過言ではありません。

民泊の規制強化の結果として訪日客を締め出すことになってしまい、せっかく増え始めたインバウンド観光需要を自ら失ってしまうのは勿体ないことです。

確かにインバウンド観光客にも問題があり、オーバーツーリズムにも対策が必要なことは確かです。しかし、民泊を規制する前に観光客の地域分散や入国税の徴収、さらには外国人観光客への地道な啓蒙活動などやるべきことがたくさんあると思います。

今回の規制強化で外国人相手に高い収益を上げてきた民泊事業者が苦境に陥るのを見て、もしかしたら溜飲を下げる人がいるのかもしれません。

しかし、民泊事業者の収益が減るだけではなく、最終的には観光業からの税収が減少して国全体が貧しくなっていきます。

少数の声の大きな人の意見に流され、みんなで一緒に貧しくなる道を自ら選択する日本人とは本当に不思議な民族です。

yaophotograph/iStock


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。