どうなる、日本のお米:新米に手が伸びなくなった消費者心理

一時、テレビニュースでは「今週のコメ価格は先週に比べ〇円値上がりし、〇週連続の価格上昇でした」と耳にタコが出来るほど報じていました。最近、その報は少し減った気がしますが、実は違う現象が起きているようです。

価格上昇が続くブランド米、そして倉庫には売れない新米が山になっている、と。

今年の新米が高かった理由は農家からの買取価格がそもそも高かったことが上げられます。買取価格設定の時期がまさに日本コメ騒動の真っただ中の頃だったため、JAをはじめ、流通業者が高値提示をし、数量を確保したのがそもそもの原因ではなかったかとされます。

その後、アメリカなどから輸入米が日本に流通し始め、飲食店から個人宅までコメの選択肢が増えました。その中で個人的にはカリフォルニア産カルローズは受けが良かったと思います。先日もテレビニュースである飲食店がライスを大盤振る舞いしているのに対し、店主が「うちは価格が妥当なカリフォルニア米なのでライスを沢山提供して、皆さんに喜んでもらっています」と述べていました。

コメ全体の価格推移を見ると小泉氏が農水大臣の時は5キロ当たり4200-4300円で推移していた価格が3500円程度まで下がります。下がった理由は備蓄米の放出で古米とのブレンド米だと3000円程度まで下がり、小泉氏が目指していた価格まで到達した感がありました。またその頃から関税を払ってでもアメリカやタイ、韓国からのコメの輸入をした方が得、ということもあり、市場には様々な選択肢が生まれした。多分、日本のコメ市場に於いてこのようなバラエティ感が出たのは初めてではないかという気がします。が、今再び4000円台に逆戻りということのようです。

鈴木憲和農水相Xより

そこで消費者は何を選択したか、と言えば海外産米やブレンド米を選ぶことで新米に手が伸びなくなったとされます。5キロ当たりの値段で800円ぐらいの差が出ると例えば育ち盛りのお子様がいる家庭ではとってもじゃないけれど高いコメは無理という経済的理由が先行すると思いますが、それと同時に一部では「古米も悪くない、外国産も悪くない」という評価が出ていることはあると思います。

個人的には何を食べるか次第でコメの味をどこまで引き出すのか違ってくると思います。丼物やカレーライスと言った場合はブレンド米や海外米でも差異は出にくい一方、刺身とか焼き魚といった味が淡泊なものはコメの味が重視されやすくなるでしょう。ところが若い世代はどうしても揚げ物や味が濃いものを好むので新米でなくても対応できてしまうことはあると思います。

では売れない新米がなぜ、高値を維持しているのでしょうか?販売側が意図的に下げないように耐えているように見えます。つまりそこに需給による価格自動調整が歪められている可能性を見ています。では今後はどうなるか、ですが、私の予想では年明けからほんの少しは下がるかも、とみています。理由は「新米」と称せるのは今年いっぱいで年明けの販売分からはそう言えなくなるので米屋やスーパーは値段を下げてでも捌きたいということはあるでしょう。

しかし、大幅な下落は期待できないと思います。理由は簡単です。備蓄米がないから政府が新米をどっと買い付けると考えているからです。つまり今、米屋で新米が売れなくても結構。後できちんと政府さまにお買い上げいただくので高いけれど欲しい方だけが買ってくださって結構、ということだとみています。よって価格崩れをさせないために売れないのに価格が上昇するという奇妙な事態が生じているとみています。

農水省の備蓄米の考え方は割とシンプルで備蓄量100万トン、これを5年で償却する計算なので毎年20万トン買い、、毎年一番古い20万トンを飼料に出しています。但しこれは平常時。今は備蓄米が30万トンにまで減っているので尋常ではないのです。その備蓄米も古い備蓄米のはずです。つまりそろそろ飼料になるような備蓄米。そこで不足量70万トンプラスを埋める必要があります。農水省はこの戦略について口をつぐんでいますが多分、定常量である毎年20万トンということはないと思います。もっと多く買い付けざるを得ません。ある程度備蓄しないと備蓄米の意味がないのです。

コメ価格がいびつな理由は米には取引市場がなく、相対相場という歪み切った価格形成となっているからです。市場による需給価格としないのは不作の年はコメ価格が際限なく上昇する可能性があり、食のインフラであるコメ価格が制御不能になったら困ると政府は考えるわけです。

ではお前はどう考えるのか、と聞かれれば江戸時代ならともかく、今の時代は様々な代替策が取れるのでコメ価格が際限なく上がることは考えにくいと思います。感覚としては備蓄米は保険と同じようなものでいざという時に流通させるものです。それを使うのは極たまにしか起きないのです。そして今年の米騒動の時、個人的には古米、古古米に対する一般の方の抵抗感は強く、「古古米買うならカリフォルニア産のコメ」という意識を作ったと思います。これにより今後、似たようなコメ不足になった時、業者が積極的に海外からコメを取り込むきっかけを作ったとみています。

つまり食品問屋からすればコメ価格が高ければ関税を払ってでも輸入米をいれることで一定の国内米の価格暴騰に対する歯止めがかかる実験が出来たので今後展開しやすくなったのです。となればコメ生産者にとっては今年は潤った年だったと思いますが、今後はそうは問屋が卸さないということになりかねない気がします。最後はなんて言っても消費者次第だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月19日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。