日本の医療制度を語るうえで欠かせない存在。それが 中医協(中央社会保険医療協議会) です。
名前は聞いたことがあっても、実際に何をしているのかは意外と知られていません。しかし中医協は、病院での支払い額だけでなく、私たちが払っている社会保険料そのものに直結する、極めて重要な会議体です。
今日はその役割を中心に、できるだけわかりやすく解説します。

-厚生労働省
中医協は「診療報酬」を決める場所
中医協の最大の役割は、
医療サービスの公定価格=診療報酬を決めること
です。日本では医療価格はすべて国が決定します(※公金の入らない自由診療は除く)。たとえば、
- 初診料・再診料
- CT・MRIなど検査の点数
- 手術・入院費
- 産科・小児科・救急などの加算
といった 医療行為の値段と構造 を、中医協が議論し、厚労省に対して答申を提出します。
※もちろん最終決定するのは政府・厚労省となりますが、この中医協の決定事項・答申内容は政府の意思決定に極めて強い影響力を持っています。
診療報酬が上がれば医療費全体が上がり、結果として 国民が払う保険料・税金の負担が増える可能性があります。
逆に、不必要な医療を抑制したり、効率化を進める議論がまとまれば、社会保険料の伸びを抑えることにもつながります。
つまり中医協は、「医療の質」だけでなく「国民負担」をも左右する場なのです。
三者構成:診療側・支払側・公益側
中医協は、三者が対等に議論する独特の構造を持っています。
- 診療側7名(医師会・歯科医師会・病院団体・薬剤師など)
- 支払側7名(健康保険組合、協会けんぽ、共済等)
- 公益側6名(大学教授などの有識者)
支払側には保険者が入り、「保険料をどう守るか」という視点から発言します。
この三者のバランスで、医療の質と国民負担の調整を行っていく仕組みです。
ついに来た!改革の本丸中医協改革。診療側委員7名中3名が医師会は異常。一方で医療人材中最大数で病院や地域で活躍する看護職代表が0名なのはどう考えてもおかしい。医師会委員を少なくとも1名減らして看護職委員1名と入れ替えるべき。病院でも地域でも患者さんに最も近いのは看護師さんでしょう。 https://t.co/l3jujG16zw pic.twitter.com/l03uWXh8AI
— 真鍋雅史(嘉悦大・大阪大) (@MANABEMasashi_L) November 24, 2025
なお診療側は医師会・病院団体が中心。コメディカルの代表格である看護師の代表はおらず、7名中3名が医師会メンバーであることが偏り・課題の一つであると指摘されています。
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中医協で実際に議論されているテーマ
単に点数を決めるだけでなく、医療の方向性を設計する役割も担います。
① 診療報酬の見直し(中心業務)
- 初診・再診の評価
- 入院基本料(7対1、地域包括ケア等)
- 産科・小児科・救急などの重点分野
- 検査・手術・リハビリの評価
- 外来の機能分化
これらが決まるたび、医療機関の収益と働き方が大きく変わります。
② 薬価の改定(薬の公定価格)
- 市場価格に合わせた薬価引き下げ
- 新薬の評価
- ジェネリック医薬品の促進
薬剤費は医療費の約3割を占めるため、薬価改定は保険料負担を左右する重要要素です。
③ 費用対効果評価(HTA:Health Technology Assessment)
中医協は“費用対効果”の分析にも力を入れています。
- 新薬・医療機器は本当に費用に見合うか
- 効果が小さいのに高額ではないか
- 既存の治療との比較は妥当か
科学的評価に基づいて価格を見直すことで、限られた医療財源を最大限有効に使い、国民負担の増加を抑えるという役割を担っています。
④ 医療の質・効率化の向上
- 過剰な投薬・検査の抑制
- 重複受診の削減
- 外来の役割分担
- 救急医療の体制強化
- 生活習慣病対策の推進
こうした議論は、医療の質を上げると同時に、将来の医療費を抑える効果があります。
⑤ 医療DXの推進
- オンライン資格確認
- 電子処方箋
- 在宅医療のICT活用
- 医療情報の共有化
DXは医療の効率化に直結するため、結果として保険料負担の上昇を抑制する方向性にもつながります。
⑥ 医療機関の経営状況の把握
- 病院・診療所の損益分析
- 人件費や職員数の構造
- 地域差の把握
- コロナ後の経営変化
診療報酬見直しの基礎となる「現場の経営」を分析する機能もあります。
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このように中医協は
どの医療に重点的に配分するか
どの分野にどれだけ点数(お金)を振るか
を決めていきます。文字通り医療業界の経営や命運を左右するがゆえ、医師会など業界団体がもっとも注力・注視している審議会です。
まさに医療費50兆円の“国家的な配分会議”であり、同時に 国民の社会保険料負担を左右する会議 であると言われるゆえんなのです。
- 病院で払うお金
- 保険料の上昇幅
- 受けられる医療の質
- 救急や産科の体制
- 新薬の価格
中医協の関わる範囲は極めて専門的かつ膨大ですが、その議論は上記のような私たちの「日常」に直接影響します。
医療制度を理解する第一歩として、中医協の役割を知ることはとても重要です。今後もその議論を丁寧に追い、わかりやすく発信していきたいと思います。
編集部より:この記事は、前参議院議員・音喜多駿氏のブログ2025年11月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は音喜多駿ブログをご覧ください。






