変わる消費者のし好:飲食や物販に時間をかけることがバカバカしい時代に

レストランなどがオープンキッチンスタイルを取り入れてから久しくなりました。それまでは厨房は裏側という考え方を客から見える化することにより何がどう作られるのか見えるようにして客に安心安全をアピールすると同時に厨房で働く人たちが真剣なまなざしで料理に没頭している姿にプロフェッショナリズムを感じたりしたものです。

日本では寿司屋や天ぷら屋といった店は昔からオープンキッチンだったのでさして驚きはなかったのだと思いますが、こちらでそれが展開された当時は一定のインパクトがありました。ちなみに住宅の間取りにおいて台所を壁で仕切る感じからオープンにするようになったのは90年代後半。オープン化することで家族や来客とのコミュニケーションをよくする目的がありました。私が関与してきた住宅の間取りの変化を見てもそれは実感できます。

では飲食に関して顧客は次は何を目指すのでしょうか?実は私が呼ばれている今年のある忘年会はホテルのスィートルーム。幹事からは「酒は持ち込み。フードは持ち込むかデリバリーにするか考慮中」と。ホテルルームにした理由は時間制約がなく、遅れてきたり早く帰ることも可能で自由度が圧倒的に高いのです。ホテル代を割り勘にしてもレストランより安く上がるかもしれない感じです。日本のホテルではこういう使い方はなかなかできないのですが、こちらは部屋ごとを借りる発想なので割と自由度が高いのです。

私がレストラン通いに熱が上がらないのは大した食べ物ではないのに価格が高く、チップも18%は要求されると「これしか食べていないのにこの値段?」になってしまうのです。日本も最近は高くなったとされますが、質を含め、こちらとは比べようがないレベルでしょう。となれば集まる=気兼ねなく=フード自体はメインテーマにならず、という流れかもしれません。

次にショッピングを考えてみます。ウォルマートが12月9日にニューヨーク証券取引所からナスダックに移ることが話題になっています。「あれ、ナスダックってテック主体の市場じゃなかったっけ?」と思うでしょうが、この巨大スーパーが目指すのはオンラインショッピング、そしてショッピングのAI化であります。つまりスーパーで実際に売っている業態に焦点を当てるのではなく、その売り方に焦点を当てる手法です。もちろん、ウォルマートがナスダックに移ったところで突然テクノロジー会社になるわけではなく、あくまでもイメージ戦略だと思いますが、アマゾンが上手なハイテクイメージ戦略をとっていることに対抗していると言えます。

オンラインショッピングという点では私どものカナダの書店のオンラインストアは最近ショッピファイベースに切り替えました。私がショッピファイにしたかったのは同社がステーブルコイン取引に積極的だからです。カナダではまだステーブルコイン取引が承認されていませんが、来年あたりにその方向になると理解しており、人々のステーブルコインの利用率が高まる期待をしているからです。

もちろん、それだけが目的ではなく、ショッピングが「楽しいことから苦痛な時間」に変わってきている現代社会の変化も見て取っています。顧客の我儘という点では「今、すぐに欲しい」なのです。「欲しい」という願望はそれを物理的にゲットするのではなく、購入手続きを済ませることで満足してしまう点に特徴があります。この心理的変化は私は極めて重要な販売戦略上の要衝だと考えています。

YoungNH/iStock

今週、ブラックフライディセールを迎えるにあたり、一部のショッピングモールでは週末に駐車場に入りきれないような状態になっています。私はあれが嫌で、人ごみの中、やみくもに何か目玉商品を探すのは苦手であります。当然ながらオンラインショッピングがより便利になればありがたいと思っています。私が思うもっともオンライン化してもらいたいリテーラーはコストコ。あそこの商品はある程度わかっています。というのはコストコが商品選別を事前に行い、顧客満足度の高い商品にあらかじめ絞っているので客からしても欲しいアイテムが明白にわかり、一択なので迷うことがないからオンラインがあればパッパと買い物を済ませることができるのです。

飲食にしても物販にしても買い方や楽しみ方は明らかに変わってきています。当地のスーパーマーケットも日本同様、冷凍食品コーナーがどんどん拡充されてきています。昔、TVディナーなんていう言葉も流行ったのですが、要は電子レンジでチンすれば出来上がりという類が増えています。一方、ファーストフード店のマクドナルドやチポトレ、更にはスタバも含め、苦戦が続きます。理由は中途半端に高くなったからでそれらの店にすら行けない人たちがもっと手軽な冷凍食品に手を出しているとも言えます。

結局、飲食や物販に時間をかけることがバカバカしい時代になったとも言えます。もちろん日本では今でもそれらが大好きという方々はいらっしゃいますが、私がトレンドの発信源である北米で35年も住んでいて思うのは人々がその価値観において共通項が無くなり、自分の好きなことに没入することに嬉しさを感じているように思えます。そういう意味ではちょっと冷たい感じがします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月27日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。