米投資家であり、トランプ大統領の側近として知られるスティーブ・ウィトコフ氏が、ロシア大統領特別補佐官ユーリ・ウシャコフ氏と交わした電話の内容をブルームバーグが報じ、米国内で議論を呼んでいる。報じられた録音では、ウィトコフ氏がウシャコフ氏に対し「(トランプ)大統領を祝福し、彼が平和への意志を強調すべきだ」と助言する様子が記録されていた。

ウィトコフと氏・プーチン大統領がクレムリンで会談、2025年8月6日 Wikipediaより
ブルームバーグが報じた「助言」の中身
報道によれば、ウィトコフ氏はウシャコフ氏に次のように語っている。
- 「大統領を祝福し、彼が平和の人であることを尊重していると伝えるべきだ」
- 「ロシアは平和を望んできた、と私は(トランプ)大統領に伝えている」
- 「ガザのときのように20項目の和平案を作成することも考えている」
- 「ドネツクや土地交換の話は直接しないほうが良い。まずは『希望のある言語』で話すべきだ」
「ロシアの手先」との批判は妥当か?
この録音が公開されると、一部の識者からは「ロシアの言い分を代弁している」「ロシアの手先だ」という批判が上がった。しかし、交渉の性質を踏まえると、こうした批判はやや単純化されすぎているという見方もある。
外交交渉で相手国の信頼を得るためには、その国の立場を理解し、一定の受容的な言い回しを用いることは珍しいことではない。ウィトコフ氏がロシア側に寄り添う言葉を使ったとしても、それが即「ロシアへの忠誠」を意味するわけではない。実際、ウィトコフ氏の忠誠や責任の所在は米国にあり、米国政府の政策形成を目的とする助言活動の一環とみるほうが自然だろう。
もしウクライナ政府関係者が同じ発言をしたなら「ロシア側の立場そのもの」と解釈されても不思議ではない。しかしウィトコフ氏の場合、役割は米国の和平仲介であり、構造的には異なる。
戦争を終わらせるための「三択」
ウクライナ戦争において米国が選びうる道は、以下の三つに大別される。
- ロシアに全面的に肩入れする
- ウクライナに全面的に肩入れする
- 双方の妥協点を探る「仲介型」アプローチ
トランプ陣営は、両当事者の妥協による和平を模索している。そのため、ロシアとの対話に加え、政権要人をウクライナにも派遣しており、両国から情報を収集している。
最終的に妥協するのはロシアとウクライナ
いかに米国が努力を重ねても、最終的に戦争を終わらせるのはロシアとウクライナ自身である。双方が妥協しなければ、双方が受け入れる形での終戦は成立しない。
また、ウクライナの「完全勝利」を主張する専門家は、西側支援の限界や、戦場でウクライナ軍が直面している厳しい状況を現実として受け止める必要がある。情勢に即した現実的な選択肢を議論することなしに、和平仲介に関わる人物を「手先」と断じるのは適切とは言い難い。
問われるのは冷静な分析
今回の録音は確かに議論を呼ぶ内容ではあるが、交渉の背景や役割分担を無視して人物像を断定するのは避けるべきだろう。和平仲介のプロセスには、相手国との信頼構築が不可欠であり、そこでの表現や態度だけを切り取れば、いかようにも誤解される可能性がある。
重要なのは、「どの国に忠誠を持つか」より、「どのように戦争を終わらせるか」
という視点である。






