安倍政権になって、やっと、成長戦略の一環として、安定雇用の意義が見直された。産業界において、安定雇用の意義の再評価が進めば、企業年金の重要性についても、改めて、再認識されるだろう。
日本における企業年金の源流は、退職金にある。退職金の支給形態に、退職時の一括払いに加えて、年金として受給できる選択肢を導入したことが企業年金の始まりだったのである。そして、この退職金には、戦後の日本の高度経済成長を支えた重要な役割があった。
高度成長期には、人と資金が圧倒的に不足していた。人については、安定雇用のもと、長期勤続を奨励し、熟練化を図ることで、資金については、金融機関の保護により、零細貯蓄の集積を図ることで、賄ったのである。
退職金は、人事面では、長期勤続するほど有利な制度として、また、財務面では、現金給与の一部を退職時まで繰り延べるものとして、有効に機能したのである。退職金を企業年金化したときも、その積立金は、金融機関を経由して、長期産業資本として、産業界に還流したのである。
今、改めて、日本の成長戦略を考えるとき、企業年金の理念は、極めて重要である。第一に、雇用の質の面で、第二に、成長資本の高度化の面で。
第一の論理は、日本産業の国際競争力は、もはや、価格にはあり得なくて、圧倒的な質の優位にしか見出し得ない、産業の質は雇用の質が規定する、雇用の質は安定雇用と長期勤続による熟練のもとでしか維持できないということである。
第二の論理は、日本を再成長軌道に乗せるためには、大規模な構造改革が必要である、それには巨額な新規投資が必要である、その成長資本を民間部門で供給できるのは、日本の金融構造のもとでは、事実上、企業年金資金しかないということである。
安倍政権は、成長資本の不足を政府資金で補完しようとしているが、政府資金は、いずれ、民間資本へ転換されなければならない、ところが、民間資本の受け皿としては、金融構造を簡単に変革できない以上、企業年金資金の強化と活用以外に方策はないはずなのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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