AIより先に外国人に職を奪われる日本

黒坂岳央です。

昨今、ビジネスメディアやSNSを開けば「AIが仕事を奪う」という議論が花盛りだ。ChatGPTなどの生成AIの進化により、ホワイトカラーの業務が代替される未来に多くのビジネスパーソンが恐れている。

だが、我が国で足元で起きているより現実的かつ致命的な脅威から目を背けてはいないだろうか?それは、優秀な外国人材による仕事の椅子の獲得だ。

多くの日本人は無意識に「外国人は日本人がやらない肉体労働をしてくれる便利な存在」と高を括っているかもしれない。だが、その認識は古い。いま現場で起きているのは、単なる肉体労働力の補填ではなく、純粋な「人材競争力」における逆転現象である。

単なる煽り記事を書くつもりはない。仕事は一般的に考えられているより遥かにドライで、企業は温情などではなく合理性だけで意思決定をする。「いつまでも仕事はいくらでもある」と甘く見ていると良い仕事は他者に奪い取られる厳しさがある。本稿はその示唆の提供を目的に書かれた。

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日本で働く外国人の優秀さ

まず、構造的な事実を直視すべきだ。日本で働く外国人、特にサービス業や建設現場でリーダー格となっている彼らは、母国の競争を勝ち抜き、言語や文化の壁を越えるという高いハードルをクリアしてきた「上澄み」という事実だ。

一方、比較対象となっている日本人は、たまたま日本に生まれ育ち、特別なフィルタリングを経ずにそこにいる「全層」である。もちろん、勤勉な層もいれば、無気力で「働いたら負け」と労働意欲が皆無な層も含まれる。

そして外国人労働者の優秀さはコンビニやホテルの現場を見れば一目瞭然だ。複雑怪奇な業務マニュアルを理解し、母国語ではない日本語で、しかも流暢な敬語を操って接客をする。これを「単純労働」と侮ることはできない。異言語で高度な業務遂行ができるということは、仕事の処理能力が高いことは疑いようもない。誰にとっても異国の地で外国語で仕事をするのは大変なことだ。

企業の「日本人離れ」

経営者や採用担当者の本音も変化している。かつては「できれば日本人を雇いたい」という空気があったが、今は違う。「日本人よりも外国人の方が良い」という声が、中小企業の社長だけでなく大企業の現場からも聞こえ始めている。

理由は明白だ。「定着率」と「メンタル耐性」である。「少し叱るとすぐに辞める」「権利ばかり主張して義務を果たさない」といった、現代の日本人が抱えがちな脆弱性を、企業側は「採用リスク」と捉え始めている。

すでに一部の観光業の現場では外国人スタッフが多く、「英語が堪能な日本人」より「日本語と英語が堪能な外国人」の方が圧倒的に多く見る。企業サイドとしてもインバウンドの活況や、人件費を考慮すると後者の採用が合理的なのかもしれない。

これがコンビニや飲食店のアルバイトだけの話ではない。日本人の学生が憧れる「人気企業」や「ホワイトカラー職」でも、すでに椅子の奪い合いは始まっている。

象徴的なのがメルカリだ。同社はかつて、新卒エンジニア採用の内定者の約9割が外国人だったことを明らかにしている。インド工科大学などの超優秀層が、日本の理系学生のライバルとなっているのだ。

また、ファーストリテイリングやソニーといった日本を代表するグローバル企業も、将来の幹部候補や高度技術者として、世界中から人材をかき集めている。 彼らが求めているのは「そこそこの日本人」ではなく「世界レベルの優秀層」だ。

採用基準がグローバル水準に引き上げられた瞬間、語学力も専門性も中途半端な日本人は、自動的に採用候補のリストから弾き出されることになる。

対して、外国人材は「母国の家族への仕送り」「永住権の獲得」「キャリアアップ」という強固な動機を持っている。ハングリー精神の次元が違うのだ。企業が、感情ではなく経済合理性に基づいて「勤勉で、辞めず、複数言語を話せる人材」を選ぶのは当然の帰結である。

AIと外国人に挟撃される「逃げ場のない」未来

ここからが、冒頭の「AI脅威論」と繋がる悪いシナリオだ。

今後、AIやSaaSの普及により、日本人がしがみついている事務職やホワイトカラーの椅子は確実に減っていく。あぶれた日本人は、「人手不足」と言われる実務職(サービス、介護、建設、物流)へのリスキリングや転職を余儀なくされるだろう。

「いずれはそこもロボットが代替する」という意見もあるが、何でもロボットと言い始めると仕事の話自体、何もできなくなるし、完全な自動化はコストと技術の面でまだ先の話だ。当面の間、現場では「人間」が必要とされ続ける。

だが、いざその「逃げ場」に降りていった時、そこには誰がいるだろう?すでに現場実務に精通し、日本語も完璧で、強いリーダーシップを発揮している「外国人」である。

彼らの中にも実力者がいれば、永遠に今のポジションに留まることはないだろう。現場リーダーから管理職へ、そして高度専門職へとキャリアパスを駆け上がる。事務職を追われた日本人が、プライドを捨てて現場に入ったとしても、そこでは「年下の外国人上司」に「使えない新人」として指導されることになる。果たして、その現実に日本人のメンタリティは耐えられるだろうか。

「自分は日本人なので日本では一級国民だ」という時代は終わった。上からはAIが事務仕事を奪い、下や横からは優秀な外国人が実務仕事を奪う。この「挟み撃ち構造」において、能力も意欲もない人間が守られる聖域は、もはやどこにもない。仕事は結果がすべて。やる気がなく、結果が出せない人には仕事がないのが現実だ。

我々は今、「日本人であること」以外に、どのような付加価値を市場に提供できるかが問われている。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。