
前回は佐々木大樹さんの與那覇潤論(?)を引きつつ、宇野常寛さんとの対談を紹介したが、佐々木氏の論にはもうひとつ、嬉しい指摘があった。

この逆説は、『知性は死なない 平成の鬱をこえて』(文藝春秋、2018年)で提示された〈言語〉と〈身体〉という二項対立に当て嵌めて考え直すとき、いくらかすっきりするように思われる。……與那覇にとって、歴史はこの〈言語〉と〈身体〉の中間で生成されるもののように思われる。
佐々木大樹氏、2025.10.23
(強調とリンクを付与)
いやはや、旧著を正確に読み解いていただいて、お恥ずかしい。ぼくなりの言語と身体の捉え方について、「本まで読むのはダリぃ」と思う方は、以下のnoteでもまぁ、だいたいわかる。

なんだけど、実はこの『知性は死なない』、意外なところで好評なのだ。
この秋には、これまでもご著書を送っていただいているゲーム作家の米光一成さんから、「予想外にボードゲームが出てくる本ベスト3」との評価をいただいた。やったね! である。

ちなみにベスト3の残り2冊は、心理学者の今井むつみさんの『学力喪失』と、内館牧子さんの小説『老害の人』だとか。こんな形で “大物” に混ぜてもらえるのは、なんだかんだで嬉しい。
なんでそんな会話を米光さんとしたかというと、彼と作家の五百田達成さんが共催している「ことばのゲームパーティ」に誘われたのだ。これまでの回の内容は、五百田氏のYouTubeにいくつか動画が上がっている。
ことばのゲームって何ぞや? と思われるかもだが、近年のボードゲームではコミュニケーション系と呼ばれる、参加者どうしの “喋り” を愉しむゲームが、ファンの間口を広げている。
詳しいことは2年前、最強のボードゲーム情報サイトTGiWの小野卓也さんと出した共著を、見てほしい。ざっくりいえば「大喜利」のハードルを下げて、落語家やお笑いタレントでなくても出場できるようにしたものだ。

そんなゲームのひとつに、『みんなで本をもちよって』がある。元は海外の作品で、スマホ世代にも紙の本になじんでもらうきっかけ作りを期して、作られたらしい。
参加者は各自、1冊の “お気に入り本” をもってくる。親がカードを引き、「〇〇に書いてありそうな文句」のようなお題を出したら(ヘッダー写真)、答えとしてウケそうな一節を本の中から探す。
答える際は、文字どおり “そのまま” 書中の文章を読み上げるのが条件で、アレンジは禁止。この縛りがあることで、誰もがちょっとはムリして答える分、笑いのセンスの差が緩和される。

『みんなで本をもちよって ~Bring Your Own Book~』
で、このゲームをふだん本を書いてるメンバーどうし、自分の著書で試す企画が秋にあった。
もちよった本は、米光さんが(以下のnoteで紹介した)『ゲーム作家の全思考』・五百田さんが『会話IQ』・ぼくが『平成史』に、歌人の加藤千恵さんが小説『今日もスープを用意して』。ぼく以外はみな、今年の本だ。

その際の動画を米光さんが、ラボのYouTubeにアップしてくれた。「1」とあるところを見ると自著で遊んだ後に、通常のルールどおり “他の人の本” でプレイした後編の「2」も、そのうち公開されるかもしれない。
以下からぜひ見てほしいけど、いや、これが実に楽しかった!
最初に答えを思いついた人が挙手すると、1分間の砂時計をひっくり返すので、ゲームはテンポよく進む。だけど挙手した人が有利とは限らず、慌てて選んだ人の答えの方がかえって爆笑を誘い、勝者になることも多い。
無限に長考をOKにすると、つい誰もがムキになって全力投球し、かえってプレイする楽しさを損ねてしまったりする。またそうした「ガチ勝負」は経験値や能力差が物を言う分、ビギナーが入っていけない世界を作りやすい。
そこで、話は冒頭の『知性は死なない』に戻る。
ボードゲームがどう、うつから回復する手がかりになったかを描く同作が、〈言語〉と〈身体〉の対に基づいているのは必然なのだ。同書でぼくはそこに、能力差という “最後の差別” を乗り越える糸口を、探している。
本の中から「適切な一節を引用せよ」という、まさに〈言語〉の操作能力を問うゲームであっても、目の前にいる人たちと “楽しみたいな” という〈身体〉的なケア感覚と噛み合うことで、能力主義のリセットが起きる。

先日、「本が売れるようにインフルエンサーしてやってる俺たちを、新しい人文主義として認めろ!」みたいな態度が炎上を招く事件があったけど、彼らがどこでまちがえたのかも、このゲームとの対比でわかる。
そうした人は、自分は〈能力〉が高いから、お前らにもわかるよう言語で圧縮できるんだという態度で、本を書いたり配信したりしがちだ。そこには、身体的な近接が生み出す共感がない。

そして、単にコンパクトに縮めるだけの要約なら、いまやAIの方がずっと得意だ。AIに教えてもらえば、そんなセット販売のマウンティングはついてこない。だから、みんなそっちを選ぶ。

『みんなで本をもちよって』も、電子書籍から抜粋させる形なら、AIにもプレイできそうである。文面を検索する力では、その技術は比類ない。
しかしその〈能力〉が、そのまま笑いをとり、参加者を互いに親しませる力とイコールになると思う人は、いないだろう(……いや、ひょっとするともう、いるのかな?)
ボードゲームを通じてこの力を知っていたことこそ、ホンモノの人文知の持ち主が、コロナ禍でも対面の価値を譲らずにいられた理由だ。オンラインでの褒めあいコラボで〈能力〉を誇り、フォロワー集めに邁進する人たちがニセモノなのは、その体験がないからだろう。

ぜひホンモノのルートで、本を読み知を得ることの喜びを、広めたい。多くの人が見る動画になってほしいので、再生よろしくお願いします!
参考記事:



編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2025年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。






