日本経済新聞は編集員レベルまで軍事産業を全く理解していない。

例によって日経の的外れな記事である。誤解ならまだしも、嘘を書くのは大問題だ。

こういう大本営発表のような記事で情弱を騙し、「防衛関連の株が上がればいい」とでも思っているのだろう。しかし、現在の政策を続ければ、防衛産業はむしろ弱体化する。

そもそも税金で国内向けの兵器を買って経済が良くなるはずがないのに、日経の記者は痴ほうなのか無知なのか、そういう現実をまったく理解していない。

情弱でリテラシーがないから、防衛省と国内大手メーカーの取材でも、相手が言うことをそのまま記事にする。これが編集委員が書いた記事のレベルである。

〈変わる国防日本の競争力〉防衛産業、裾野育成で強く 護衛艦1隻に8300社の供給網経済成長の一助に 日本経済新聞

〈変わる国防 日本の競争力〉防衛産業、裾野育成で強く 護衛艦1隻に8300社の供給網 経済成長の一助に - 日本経済新聞
日本の防衛費は政府の予算でいまや公共事業費を上回る歳出項目となった。その巨額の財政支出を経済の活性化につなげる視点が欠かせない。裾野が広く強じんな防衛産業を育てるには、官民一体となってサイバー攻撃や供給網の途絶などのリスクを低減できるかがポイントになる。岸田文雄元首相が防衛費について国内総生産(GDP)比2%を目指すと...

以前は日本の防衛産業で撤退や事業譲渡の動きが続いていた。19年までにコマツは陸上自衛隊向け装甲車の新規開発を停止した。21年には住友重機械工業が機関銃生産から退いた。防衛費の制約で成長が見込めず、開発費に見合った採算が望めなかったことが背景にある。

これは嘘。

日経はこういう嘘を平気で書く。

コマツが撤退したのは、屑しか作れなかったから。軽装甲機動車は排ガス規制に対応したら単価が3500万円から5000万円に高騰して、財務省からダメ出しを受けた。当時ですら他国の同様の装甲車は1〜2千万円程度だった。

そして、8輪装甲車の開発にも失敗。少額しかかけなかった試作が屑で採用されなかった。いずれにしても性能は他国より低く、値段は3倍以上。たとえばコマツにAMVやピラーニャを作る技術はなかった。

住友重機械工業は品質をごまかしてきた歴史が40年以上ある。開発した新型機銃も屑で、対抗のFN社のMINIMIに勝てるはずがなかった。

さらに申せば、ライセンス品の調達単価はオリジナルの5〜10倍以上。海自ですら外国製に切り替えようとした。この責任は調達側の陸幕を含めて、幕僚監部・装備庁にもあった。無理に国産するので少量生産になりコストが上がるし、火器メーカーの統廃合をしなかったので仕事を集約できなかった。

つまり開発力がなく、コストは高すぎた。事業の拡大どころか維持も無理だったから撤退した。

「市場規模」でみれば2.5兆~3兆円の白物家電や建設機械の業界よりもはるかに大きい。

防衛費の増額は中小企業を含めた防衛産業を再興し、経済成長につなげるきっかけになる。ただ支出を増やせば、自然に強い国内産業が育つというわけではない。

日経はバカなのか?

税金を使って国内向けの兵器を作っても経済成長にはつながらない。それは乗数効果がないからで、穴を掘って埋めるのと同じだ。つまり税金を食いつぶしているだけである。それで本当に儲かるなら、ソ連は崩壊していない。

ミサイルを作るよりも、隅田川の花火大会で花火を打ち上げる方が、よほど経済効果がある。

例えばコミケは一円も税金を使わずに年60万人を動員する。暇な時期のビッグサイトが6日間埋まり、参加者が移動し、飲み食いし、同人誌を買う。同人誌を印刷する印刷会社も潤う。対して戦車を作っても乗数効果はほとんどない。せいぜい軍オタ向け雑誌が売れる程度だ。

自動車や電機など民生品の産業と最も異なるのは、需要が自衛隊にほぼ限られることだ。戦争が起きない限り装備品のライフサイクルは長く、少量・多品種の生産を迫られがちだ。一度生産すると数年ほど受注が途絶える状況を、業界では「お久しぶり生産」と呼んできた。

だから終わっている。ムリゲー。同じ分野の事業を統廃合すれば受注機会も増えて、生産性も上がる。新製品開発のサイクルも上がる。それを防衛省はやらずに、弱小事業を温存してきた。そして今後もそのつもりもない。

細かい部品でも企業が撤退して供給網が綻べば、装備品を生産できなくなる事態も想定される。

これも事業の統廃合が必要だ。10社ある下請のうち3社に集約できれば、生産性も収益も改善する。現状では絶対金額が低すぎるため、多少利益が上がっても構造的に存続できない。

それなのに、これを放置して仲良しこよしごっこを続けている。農業と同じ構図だ。農業と同じように補助金をばらまいて衰退していく。

国がこれらのリスクの大部分を背負う必要がある。輸出を推進して自衛隊以外の需要を開拓し、生産量を増やすのが第一の課題になる。企業のサイバー対策など安保リスクを除去する支援も欠かせない。

政府は24年、輸出用に装備品の仕様を変更する資金の助成制度を整えた。基金をつくり、企業のニーズに迅速に対応できるようにした。

そもそも輸出をしようなどという野心のある企業が少ない。自社サイトで防衛装備を扱っていることを隠すような、いすゞのような企業ばかりだ。ひたすら防衛省という親に養ってもらおうとする「子供部屋おじさん」ばかりである。例えばコマツはまだ砲弾を作っているが、コマツに輸出する気はないし、あったとしても高すぎて売れない。

現実を見ず、取材もろくにせず、防衛省のA棟あたりで内局官僚のレクを受ける程度、あるいは政権の太鼓持ちをしているだけでは、こういう屑記事しか書けない。

もがみFFM-1 海上自衛隊HPより(編集部)

■本日の市ヶ谷の噂■
もがみ級フリゲートは前半の艦はVLS(ミサイル垂直発射装置)を後日搭載ということにして調達が始まったが、その部分がぽっかり空洞になっている。このため船体の強度が低く、下手をすると荒れた海では船体がねじれて、崩壊・沈没の可能性がある、との噂。

Kindleで有料記事の公開を始めました。

いずも級、22DDHは駆逐艦に非ず。 (清谷防衛経済研究所) – 清谷信一
暴力装置 (清谷防衛経済研究所) – 清谷信一

東洋経済オンラインに寄稿しました。

拡大する防衛費を防衛省・自衛隊が適切に使えていない可能性。陸上自衛隊による、銃の調達や取り扱いから垣間見える「知識不足」の疑い
https://toyokeizai.net/articles/-/911653
ソニーグループが「隠れた防衛関連企業」といわれる理由、実は同社製のある汎用品がミサイルやドローンなどに欠かせないパーツになっていた
https://toyokeizai.net/articles/-/907817

過去の著作の電子版が発売になりました。
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『弱者のための喧嘩術』
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防衛破綻 – 清谷 信一


専守防衛 – 清谷 信一


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2025年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。