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大学病院、公立病院、さらには多くの民間病院が赤字続きで存続の危機にあるという報道が続いている。背景には、この数年で進んだアベノミクス失敗による超円安と、輸入依存の物価高騰──いわゆる悪いインフレ、スタグフレーションの影響がある。医療機器は米国製が多く、病院給食に使う食材も輸入が多いため、円安の直撃を受ける。
デフレ期だった2010年代の為替レートは1ドル100〜120円だったが、現在は150円前後である。ドル建ての購入価格は実質5割増で、医療機関の負担増は避けられない。
これに追い打ちをかけるのが、少子化による医療人材の減少と、働き方改革による労働規制強化だ。人手不足が慢性化し、人件費は上昇する。看護師不足で病棟閉鎖に追い込まれる事例もあり、収入減とコスト増が同時進行している。
だが診療報酬改定は2年に一度で、急激なコスト増に追いつかない。さらに医療費は消費税非課税のため、仕入れにかかる消費税を患者に転嫁できず、常に“実質一割引き”でサービスしている状態だ。物価高で支払う消費税が増えるほど医療機関の損失は大きく、不公平と言わざるを得ない。
物価高、人件費増、消費税転嫁不能という三重苦により、病院もクリニックも青息吐息である。
医師会は診療報酬の引き上げを求めているが、2年ごとの改定では物価や為替の変動に機敏に対応できない。補助金などの公金投入も手段だが、立法と財源の確保が必要で容易ではない。
しかし、比較的簡単な解決策がある。診療報酬は「点数 × 単価(係数)」で決まるため、この単価を調整すればよい。単価は厚生労働省告示で定められているため、変更は比較的容易であり、最終的には閣議決定で対応できる。
実際、介護保険の報酬は地域の物価差を反映させる目的で単価を調整している。同じ仕組みを医療保険にも導入し、物価や為替変動に連動させればよい。
コロナ禍では使い捨て手袋や医療用マスクが一時10倍近くに価格高騰し、行政が現物支給で支援した。しかし、災害ではなく経済環境の継続的な変動に対処するには、持続的かつ機動的で、かつ受益者負担が適正に働く仕組みが必要だ。
単価調整は恒常的な医療費膨張を招くものではなく、物価上昇期には医療機関を救い、物価が下がれば元に戻せる。デフレなら単価を下げて国民医療費を抑制することも可能だ。自己負担が増えて生活が圧迫される場合は、高額療養費制度で救済できる。過剰な受診や“医者ショッピング”は、むしろ抑制されるべきだ。
単価改定は省令・告示で実施可能とされ、政治の判断があれば即応できる。政権、担当閣僚、代議士諸兄姉には、ぜひ早急な検討を望みたい。
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