日本一早いビジネス書ランキングの講評(6位~10位)

(前回:日本一早いビジネス書ランキングの講評(1位~5位)

後半の5冊は、ビジネススキルというよりも「人間関係」と「健康」に焦点を当てた書籍が並んだ。人前で話すことへの苦手意識、職場や学校での対人ストレス、母と娘の複雑な感情、健康常識への疑問、そして夫婦間のすれ違い。いずれも多くの人が日常的に抱える悩みであり、だからこそ共感を呼ぶテーマである。

注目すべきは、著者自身が当事者として苦しみを乗り越えてきた経験を持つ書籍が多い点だ。理論だけでなく、実体験に裏打ちされた説得力が、読者の心に響く一冊となっている。それでは6位から順に紹介しよう。

6位 「人前で話したくなる声と話し方」(下間都代子 著)日本実業出版社

本書は、緊張克服からテーマ選び、構成、ネタ探し、声による感情の届け方までを網羅した「人前で話す」ための決定版である。著者の下間都代子氏は、元FM802アナウンサーで、現在はフリーアナウンサー・ナレーターとして活躍。阪急電鉄の車内放送や京阪電車の駅構内放送など、関西では「電車の声の人」として知られ、話し方・発声講座で3000人以上を指導してきた実力派だ。

最大の特徴は、著者独自の「スピーチマップ」をはじめとする実践的なフレームワークにある。緊張を克服するためのヒント、自己紹介やSNSライブ配信で「人前で話す練習」をする方法、「声」に感情を乗せる表情・間・抑揚のトレーニングまで、段階的に学べる構成だ。さらに「スピーチテーマのジャンル10選」「ネタメモ5選」「ネタ&フレーズ集」など、すぐに使える素材も豊富に収録されている。

ベストセラー作家の本田健氏も「才能や度胸の話ではなく、ネタの見つけ方、話の組み立て方、声と話し方の土台を丁寧に整えてくれる一冊。話すことは、努力ではなく設計でラクになる」と推薦している。

『今すぐ!思わず!もう一度! 人前で話したくなる声と話し方』下間 都代子 (著)|本田健の読書日記#101|本田健(Ken Honda)
こんにちは、本田健です。 僕の本棚からオススメの1冊をお届けしている「読書日記」。 101冊目に紹介させていただくのは、こちら。 『今すぐ!思わず!もう一度!  人前で話したくなる声と話し方』  下間 都代子 (著) 「話すのが苦手」 「人前に立つと緊張する」 「何を話せばいいかわからない」 そんな“話すことの壁...

筆者としては、「話すのが苦手」「人前に立つと緊張する」「何を話せばいいかわからない」という悩みを持つビジネスパーソンにとって、即効性のある実践書だと評価したい。プロのアナウンサーが現場で培ったノウハウを惜しみなく公開しており、人前で自信を持って話せるようになるための確かな道筋を示している。

7位 「キライな人がいなくなる方法」(堀もとこ 著)あさ出版

本書は、「人をキライになるのって、疲れませんか?」という問いかけから始まる、人間関係のストレスを心理学的アプローチで解消するための実践書である。著者の堀もとこ氏は認定心理士・人間力アップコンサルタントで、自身がメンタル不調を克服した経験をもとに、心理学をベースとした「折れないメンタルの作り方」を伝えている。前著『悪口を言われても気にしない人の考え方』は海外でも翻訳出版されるなど高い評価を得ている。

本書の核心は、「嫌われないより嫌わないほうが何倍も簡単」という逆転の発想にある。なぜその人を「キライ」になるのか、そのメカニズムを理解し、ネガティブな感情の発生原因を解明。「思考リセット術」による心が軽くなる4つのステップや、キライな気持ちをリセットするトレーニングなど、具体的な実践法が体系的に解説されている。樺沢紫苑氏も「あなたの【おおらかさ】で、人間関係は変えられる!」と推薦している。

特筆すべきは、本書が著者本人の自筆である点だ。ビジネス書の9割がゴーストライターによるものと言われる中、これは大きな評価ポイントである。ゴーストライターやAIが書いた文章は揺らぎがなく完璧であることからすぐにわかる。本人にヒアリングしたところ、文学賞にも入賞経験があり、文章に馴れた人と言っても過言ではない。

その筆致には著者自身の体温が感じられ、読者の心に自然と寄り添う温かさがある。職場や学校など逃げ場のない環境で人間関係に悩む人にとって、視点を変えることでストレスを軽減できる確かな道筋を示した良書だと評価したい。

8位 「母と娘の関係を変える魔法の言葉術」(松谷英子 著)WAVE出版

本書は、「こんなはずじゃなかった」「もっとこうすればよかった」という母親の後悔を手放し、ブレない母親になるための実践的コミュニケーション術である。著者の松谷英子氏は歯科医・心理カウンセラーとして3万人以上の患者を診察し、オリンピック選手やウィンブルドン出場選手のメンタルトレーニングも手がける。通算カウンセリング対象者は1万人以上、セミナー開催も500回を超える実績を持つ。

本書の最大の特徴は、著者自身と18歳の娘・咲さんとの実体験を赤裸々に綴っている点だ。娘の咲さんは中卒で人気タトゥー彫師として活躍し、15歳で『15歳の叫び あんな大人になりたくない』を出版するなど、一般的な「普通」とは異なる道を歩んでいる。その過程で著者が経験した喜びも苦しみも、弱さも失敗も、すべてをオープンにして伝えている。読者からは「子育ての前に親育て」「松谷ファミリーの物語が赤裸々に綴られている」「過去一の松谷英子先生の本」と高い評価を得ている。

著者は自身も20代で摂食障害やコミュニケーション障害を経験し、大脳生理学、行動療法、心理学を学んで克服した背景を持つ。その経験から生まれた「五感式人生脚本」というメソッドが本書にも活かされており、母娘関係を良好に保つための言葉の選び方が体系的に解説されている。

筆者としては、母娘間の複雑な感情に悩む方にとって、著者自身の体験に裏打ちされた説得力ある一冊だと評価したい。理論だけでなく、実際に葛藤を乗り越えてきた当事者だからこそ伝えられる温かさが、読者の心に寄り添う良書である。

9位 「その油が寿命を縮める あなたが知らない健康の真実」(崎谷博征 著)ホリスティックライブラリー出版)

「健康のため」と信じて摂取しているオメガ3やオメガ6などの多価不飽和脂肪酸(プーファ)が、実は現代人の健康問題の主因であるという衝撃的な主張を展開する一冊。著者の崎谷博征氏は奈良県立医科大学・大学院卒業の医学博士で脳神経外科専門医。ガン研究で学位を取得し、一般社団法人パレオ協会代表理事として延べ5000人以上の難病患者の根本治療指導に従事してきた。

本書の核心は、フィッシュオイルや植物油脂に含まれるオメガ3・オメガ6が酸化しやすく、体内で猛毒のアルデヒドを生成するという指摘だ。このアルデヒドが生体組織にダメージを与え、ガン、自己免疫疾患、メタボリックシンドローム、神経変性疾患、精神疾患、老化、不妊といった現代病の元凶になっているという。一方で飽和脂肪酸は酸化しにくい「良質な油」として再評価されている。

「脳や心臓によい」とされてきたDHA・EPAが実は酸化しやすさの最たるものであるという逆説は、従来の栄養学の常識を根底から覆すものだ。

ただし注意が必要なのは、本書の主張が主流の栄養学・医学の見解とは大きく異なる点である。著者は『ウイルスは存在しない』など従来の医学常識に異を唱える著書も多く、いわゆる「オルタナティブ医療」の立場に立つ。本書の内容を鵜呑みにするのではなく、一つの視点として捉え、自身で情報を精査した上で判断することが求められる。健康常識を疑い、自分の頭で考えるきっかけとしては価値のある一冊といえる。

10位 「わかってもらえない妻 かまってもらえない夫」(須藤夫婦 著)実業之日本社

結婚40年の夫婦インフルエンサーが、自らの10年に及ぶ「怒鳴り合う日々」を乗り越えた経験をもとに綴った夫婦関係改善の実践書である。著者の須藤美喜子氏はTemple大学教育学博士後期課程で言語コミュニケーションや会話分析を専門とし、国際基督教大学や関西学院大学など24年間大学教壇に立った研究者。主な研究テーマは「会話に現れる力関係」という、まさに夫婦間コミュニケーションを学術的に分析できる専門家だ。

本書の特徴は、夫婦関係を5つのパターンに分類し、それぞれの事例と解説を「妻の言い分」「夫の言い分」の両視点から提示している点にある。読者からは「あーあるある!」「そうだよね!」と共感の声が多く、心理学に基づいた構成で自分を振り返り見直すうちに心が軽くなるという評価を得ている。

「須藤夫婦@中高年あるある」のショート動画はSNSで800万回超再生を記録しており、中高年夫婦のリアルな悩みに寄り添うコンテンツが支持されている。本書が提示する最終ゴールは「しあわせ夫婦」であり、「一人でも生きられる。でも、もう一度手をつなごう」という言葉に著者夫婦の到達点が凝縮されている。

一方で「内容が盛りだくさんで分かりにくいところがあった」という指摘もあり、情報量の多さが読みにくさにつながっている面も。とはいえ、学術的知見と実体験の両方を持つ著者ならではの説得力があり、「一家に一冊、時々読み返すと良さそう」という評価が本書の価値を端的に示している。

以上、6位から10位までを紹介した。

今回のランキング全体を振り返ると、2025年のビジネス書・自己啓発書に共通するキーワードは「実践」「当事者性」「逆転の発想」の3つだ。机上の理論ではなく現場で使えるフレームワーク、著者自身が困難を乗り越えた実体験、そして従来の常識に一石を投じる視点。これらを備えた書籍が読者の支持を集めている。

年末年始の読書に、ぜひ本ランキングを参考にしていただきたい。一冊でも「自分ごと」として響く本に出会えれば幸いである。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)