欧州連合(EU)欧州委員会は16日、2035年から予定していたガソリン車などエンジン車の新車販売禁止措置を見直す方針を発表した。再生可能燃料の利用や低炭素鋼材の活用などによる排出削減を条件に、2035年以降に新規登録される車両について、自動車メーカーのCO2排出量目標として、従来の100%削減ではなく、90%削減が義務付けられる。自社の新車全体で平均90%削減が達成できればエンジン車やハイブリッド車(HV)の販売を認める。2040年以降も100%削減目標は設定されないという。

内熱機関車の新車発売禁止阻止を撤回した欧州委員会、2025年12月16日、欧州委員会公式サイトから
EUが温暖化対策の柱として掲げてきたエンジン車(内燃機関車)の新車販売禁止を2035年までに破棄することを決めたことに、自動車製造王国のドイツでは歓迎する一方、懸念する声も聞かれる。「輸出大国ドイツ」の看板を長い間支えてきた自動車産業界は今、揺れている。
ドイツの自動車産業、特にフォルクスワーゲンやBMW、ダイムラーなどは長らく内燃機関車を主力としてきたが、近年の気候変動に対する懸念から、世界的に電動車(EV)へのシフトが加速している。特にヨーロッパでは、EUが厳しい排出基準を課し、2035年までに新車の内燃機関車販売を禁止する方向に進んできた。テスラなどのアメリカ企業や、中国のBYDといった電動車に特化した新興メーカーに先行を許し、ドイツの自動車メーカーは電動化シフトで遅れてきた。
ドイツ車の最大の購買先は中国市場だが、中国政府が国内の電動車メーカーを保護する政策を強化してきた。中国の自動車メーカーも技術と品質を急速に向上させているため、ドイツの自動車メーカーにとって中国市場の競争が一段と厳しくなってきている。特に電動車の分野で中国勢が急速に成長していることから、ドイツのメーカーはシェアを失ってきた。
16年間続いたメルケル政権時代、メルケル首相(当時)は12回、ドイツの経済界、特に、自動車メーカーのトップを引き連れて訪中した。中国はドイツにとって最大の貿易相手国だからだ。例えば、ドイツ車の3分の1が中国で販売されていた。2019年、フォルクスワーゲン(VW)は中国で車両の40%近くを販売し、メルセデスベンツは約70万台の乗用車を販売した(「輸出大国ドイツの『対中政策』の行方」2021年11月11日参考)

欧州委員会の今回の決定には、ドイツ、イタリアなどの自動車メーカ―を抱える国々から圧力があったことは間違いない。自動車業界の専門家たちは独民間放送ニュース専門局NTVとのインタビューで、「EUと自動車メーカーは時間を稼いだと考えているが、実際は、中国メーカーは競争力をさらに強化するための時間を得たことになる。内燃機関の段階的廃止の終了は、ドイツの自動車メーカーにとって短期的にはプラスとなるが、長期的にはマイナスだ。なぜなら、内燃機関への多額の投資が継続され、その資金が電気自動車に回らなくなるからだ」と主張している。
NTVは「内燃機関車禁止の撤廃は中国への贈り物」という見出しで、「電気自動車において極めて重要な役割を果たすバッテリーにおいて、中国メーカーの優位性はさらに拡大する可能性が高い。ドイツの自動車メーカーは、世界市場における主導的地位を維持するために、特にバッテリーセルにおいて、早急に追い上げを図る必要がある。さもなければ、自動車業界における世界的な競争に負けてしまう。現在、ドイツの電気自動車は、中国メーカーの製品と同等の品質を実現するにはあまりにも高価すぎる。イノベーションと必要な投資が早急に必要だ」と報じている。
いずれにしても、EUが2035年以降、新しい内燃機関を厳しく禁止しなくても、「今後10年間でeモビリティが主流になる。内燃機関の禁止解除されたとしてもそのトレンドは変わらない」という予測が専門家の間では支配的だ。
なお、欧州自動車工業会(ACEA)によると、EU内で2025年1月から10月の新車登録台数累計は前年同期比で1.4%増、そのうち電気自動車の市場シェアは16.4%だった。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






