黒坂岳央です。
「仕事は能力が高い人が評価される。結局、生まれつき優秀な人が有利だ」
誰しも若い頃は一度は考えたことだろう。しかし、ある程度年齢を重ねると事実はそうでないことが見えてくる。高学歴で頭が良い、難関資格を持っていて優秀であることは明らか。だが「あの人は仕事が出来ない」という不名誉な評価を受けている人を、筆者はかなりの数を見てきた。
彼らは間違いなく優秀だ。会話をしても頭の良さが伝わってくる。だが仕事で評価されず、出世もしない。
なぜか?理由は「常に自分にベクトルが向いている」からだ。持論を取り上げたい。

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仕事の評価は「成果」×「感情」
「仕事が出来る」という他者評価はどのように獲得するのか?
多くの人は「成果の足し算」だと勘違いしているが、実際には「成果×感情」の掛け算で決まる。
どれほど素晴らしい成果物を出しても、相手の感情係数がマイナス(不快、不信)であれば、総合評価はマイナスになる。逆に、成果が平均的でも、相手の課題を解決しようとする姿勢が伝われば、評価は数倍に跳ね上がる。
これは「媚び」や「私情」の話ではない。人は「自分のために動いてくれる人」を高く評価するという、抗えない行動原理がある。そのため、ここを無視するのは戦略的なミスである。
たとえば「こんな嫌な仕事、早くやめたいから仕方がなく急ぎます」という人と「1秒でも相手を待たせないよう、創意工夫を凝らして早く仕上げる」という人とでは同じ結果でも、異なる動機で評価が分かれる。言うまでもなく好意的に評価されるのは後者だろう。
「それはおかしい!仕事なのだから私情を挟まず、結果だけで評価しろ」と反発する人もいるだろうが、実際にはそのような人も現実的に私情で相手を評価する。
面倒くさそうに給仕するスタッフには「対応が悪かった」と悪い口コミをつける一方で、相手を待たせないように笑顔でテキパキ動くスタッフには良い印象を持ち、好意的な口コミをするのが普通の人の思考、行動である。
結局、人は自分のために頑張る人を高く評価するものなのだ。もちろん、感情だけですべてが決まる訳ではないが、評価基準にまったく入らないということはない。
自己意識で仕事するとズレる
なぜ能力が高いのに成果が出ないのか?それは「高い能力」を「間違った目的地(自分ベクトル)」へ猛スピードで走るのに使ってしまうからだ。
恥ずかしい黒歴史だが、駆け出しの頃まさに筆者自身がこれで失敗をした。彼女と食事に行く予定の日に、上司から大変重い仕事を振られてしまった。普通の日は当然に一生懸命働くのだが、この日だけはお店の予約もしており、彼女の待ち合わせに遅れないよう、ものすごく焦ってしまった。
結果として、頼まれた資料作成の仕事は非常に雑になり、数字を間違えたり誤字脱字がある状態で上司に提出。この上司は非常に優秀で細かい点まで見る人物だったので「今日のお前どうした?何、早く帰りたいの?なんかそうにしか見えない仕事っぷりなんだけど」と見事に見抜かれ、かなり厳しく叱られてしまった。結局、翌朝早く出社して仕上げる約束をして帰してもらったが、今振り返っても恥ずかしい経験だったと思っている。
この経験から学んだのは、ベクトルが自分に向いている状態での「頑張り」は成果物がズレてしまうということだ。焦れば焦るほど、解像度が狭くなり、相手が求めていない方向に全力を出してしまう。これでは評価されない。
優秀な人は自信がある分、誰よりも速く、遠くへ、大きく間違った方向へ突っ走る。これが「高学歴エリートが仕事で無能扱いされる」構造的な原因だ。
テイカーは評価されない
かつての自分もそうだったが、多くのビジネスパーソンが抱える誤解がある。それは「給与は我慢料」という認識だ。
しかし、経済合理性の観点から見れば、給与とは「これから価値を提供してくれるだろう」という期待値に対する先行投資である。社員はすでに契約上の対価を受け取っている以上、勤務時間中に自分の利益ばかりを優先してしまうのはテイカー思考といえる。
仕事が出来るビジネスプロフェッショナルとは「利害関係者の利益を最大化することに全振り出来る人」だと思っている。本来、給与をもらってそうするべき立場なのに「常に自分の損得だけを考えて働く」という姿勢は評価されないのだ。
一般的に高学歴や難関資格保持者はメタ認知力も高い傾向であり、そうでない事が多い。だが、実際に仕事をすると一流校を出た人物でも「自分の承認欲求を満たすため、付加価値の低い発言を繰り返して会議参加者のリソースを奪う」みたいな場面は何度も出くわした。
彼らは頭はいいが、残念なことにその性能は自分を利することに使われてしまい、周囲は「あの人、学歴は高いけど仕事出来ないよね」という不名誉な評価になるのだ。
◇
結局のところ、本当に「自分の利益」を最大化したいのであれば、矛盾するように聞こえるが「仕事中は滅私奉公」が正解だ。
我々はクライアントを勝たせて評価されるゲームに参加している。そして皮肉なことに、自分の損得を無視して相手に憑依し、相手を勝たせた人間だけが評価されるように出来ている。
能力の高さは自分ではなく、相手を利するために使うことがまわりまわって、自分が最も得をするのだ。
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