イラン治安部隊、デモ参加者に実弾発射?

イランの首都テヘランとマシュハドで9日夜(現地時間)、抗議活動が再び勃発した。ソーシャルメディアで共有された動画には、テヘランとマシュハドの中央広場に人々が集まる様子が映っている。ただし、全国的なインターネット遮断のため、流出している画像はわずかで、抗議活動の正確な規模は不明だ。抗議デモ参加者は現ハメネイ聖職者体制の終焉を求めてきた。イラン治安部隊が抗議デモ参加者に対して実弾を発射しているという情報が流れている。イラン情勢は混とんとしてきた。

イランで抗議デモが激化、2026年1月9日、Tasnim通信から

2003年のノーベル平和賞受賞者であり、弁護士、人権活動家のシーリーン・エバディ氏は、「全国的に通信が遮断されているから、治安部隊による虐殺が起きる可能性が出てきた」と警告している。

活動家らが公開した動画には、テヘラン北西部のサアダト・アバド地区に集まった人々の姿が映っている。背後で、モスクが放火されたと報じる声が聞こえる。映像には、街路に広がる火災と混乱の様子が映っている。動画の別の場面では、群衆が「独裁者に死を!」と叫んでいる。

ニューヨークに拠点を置く「イラン人権センター」(CHRI)は、国家による暴力行為への懸念を表明した。同センターによれば、テヘラン、マシュハド、カラジ地域の病院は負傷したデモ参加者で溢れているという。イラン首都の6つの病院で200人以上のデモ参加者の死亡が記録され、そのほとんどは実弾によるものだという。オスロに拠点を置くイラン人権NGO(IHRNGO)は、治安部隊との衝突でさらに数百人が負傷したと報告している。いずれも、これらの数字は独立した検証は不可能だ。

そのような中、1979年に廃位されたパフラヴィー国王の息子、レザー・パフラヴィー氏は8日、イランの国民に向けペルシャ語でメッセージを送り、抗議デモ参加者に連帯を表明。同時に、トランプ米大統領に対し、介入を求めた。亡命先の米国からの同氏のメッセージに対し、イラン国民の中には歓迎する声がある一方、時計の針を元に戻すことはできないとして、現体制での改革を進めていくべきだという声が強い。

なお、トランプ氏は、「イラン情勢を注視している。イラン当局が人々を殺害し始めた場合、米国は介入する」と述べたが、それは軍隊を派遣するという意味ではなく、「痛いところを徹底的に叩く」という意味だという。

ドイツ、フランス、イギリスの欧州主要3国は9日、イランで広がる抗議デモに関して、治安部隊の「暴力行為」を伴う弾圧により死者が出ていると非難する共同声明を発表し、イラン当局に自制を求めた。

一方、イランのアミール・サイード・イラヴァニ国連大使は国連安全保障理事会への書簡で、「米国はイスラエルと共謀してイランの内政に干渉しており、国連憲章に違反している。米国は平和的な抗議活動を暴力的で破壊的な行為、そして広範囲にわたる破壊行為に変えている」と主張した。

イランの最高指導者、アリー・ハメネイ師は、9日発表された演説で、抗議行動をトラブルメーカーであり、国家にとって有害だと非難し、「外国人の傭兵として行動する者を容認しない」と述べた。また、ゴラムホセイン・モフセニ・エジェイ最高裁判所長官は既に、デモ参加者に対し厳しい弾圧を行うと警告し、いかなる寛容も行わないと表明している

ちなみに、2026年1月4日に英紙「タイムズ」が情報筋の話として「ハメネイ師は抗議デモが鎮圧できなければ、ロシアへの逃亡を準備している」と報道した。これは、イスラエルとの「12日間戦争」後、同師が政治的にも弱体化してきたという。

今回のデモは、先月28日の為替レートの急落がきっかけとなった。特に首都テヘランでは、商人たちが自発的に街頭に繰り出した。そして抗議デモは大学にも波及し、テヘラン市内の7つの大学でデモが行われた。抗議デモはイラン全土に拡大してきている。

ところで、ハメネイ師を代表とする聖職者支配組織とそれを支持するイスラム革命防衛隊(IRGC)の強硬派に対し、穏健派のペゼシュキアン大統領は1日、チャハル・マハル州とバフティヤーリー州を訪問した際、政府の経済政策の金融対策の失政を認め、政治的分裂を警告し、国民に対話を呼び掛けている。メフル通信によると、ペゼシュキアン大統領は労働組合の指導者らと会談し、経済危機への対策を提案した。また、内務省に対しは、「抗議活動参加者の正当な要求に耳を傾け、代表者と対話を行うように」と強く求めたという。

同大統領はこれまでハメネイ師には忠実な政治家と受け取られてきた。同大統領が今回の抗議デモを対話を通じて解決できれば、イランの政情が再び安定を取り戻す可能性が出てくるが、状況は流動的だ。

なお、ロシア側は同盟国イランの苦境を懸念している。シリアのアサド政権が2024年12月に崩壊し、ベネズエラのマドゥロ大統領が1月3日米軍に拘束されるなど、親ロシア派政権が次々と崩壊している。それだけに、イランの現体制が崩壊すれば、ウクライナ戦争で無人機をロシアに供与してきたテヘランからの軍事支援が途絶えるだけに、その影響はアサド政権の崩壊時より大きい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。