1月12日、イランの抗議デモは15日目を迎えたが、収束の兆しを見せず続いている。今回の抗議デモは昨年12月28日の為替レートの急落がきっかけとなって始まった。特に首都テヘランでは、商人たちが自発的に街頭に繰り出した。抗議デモは直ぐに大学にも波及し、テヘラン市内の7つの大学でデモが行われた。欧米の人権団体からの情報によると、抗議デモは現在、イランの185都市に拡大している。

イランのハメネイ師派の国民 Tasnim通信から 2026年1月12日
イランの抗議デモは最初は物価高騰や通貨イラン・リヤルの急落といった経済的理由が切っ掛けだったが、ここにきてイラン聖職者支配体制のムッラー政権打倒を叫び、体制チェンジを求める声が高まってきた。それを受け、ムッラー政権は抗議デモ参加者に対してこれまで以上に強硬姿勢で臨んできている。
米国戦争研究所(ISW)の分析によると、イラン指導部は抗議デモ参加者をもはや暴徒ではなく、テロリストというレッテルを貼ってきた。人権活動家によると、ここ数日で数百人のデモ参加者が殺害されたという。ISWは「イラン当局は抗議活動をもはや法執行や群衆統制の問題ではなく、軍事問題として捉えつつある」と伝えている。
CNNは、米国の人権団体HRANAを引用し、少なくとも490人のデモ参加者が死亡、さらに約1万700人が逮捕されていると報じた。イラン指導部は8日から国内のインターネットを遮断している。デモ参加者間のコミュニケーションを妨害し、大規模な抗議活動に関する報道、写真、動画の公開を抑制することが目的だ。ただし、必要な端末が利用可能であれば、スターリンク衛星システムを介して外部との接続は可能だ。
強硬派のイラン国会議長モハメド・バゲル・ガリバフ氏は11日、国会で「抗議活動が米国の軍事介入の根拠を作ろうとしている」と指摘、デモを米国が画策したイランに対する「テロ戦争」と表現した。そのうえで「米国のいかなる攻撃も、地域の米軍基地とイスラエルへの報復攻撃につながる」と警告した。イランの最高指導者ハメネイ師は9日、デモ参加者を「外国人のための傭兵」と非難している。
イラン情勢を注視してきたトランプ大統領は11日、大統領専用機エアフォースワン機内で記者団に対し、イラン治安部隊がデモ参加者に発砲するなど強硬手段を行使していることに懸念を表明、「我々は非常に深刻に受け止めている。軍は状況を監視しており、非常に抜本的な選択肢を検討している」と語った。そして「イランの指導者たちは10日、私との交渉のために連絡してきた。しかし、会談の前に、米国は行動を起こさなければならないかもしれない」と強調した。トランプ氏は詳細を明らかにしなかったものの、米・イラン会談が調整されているという。
一方、1979年に廃位されたパフラヴィー国王の息子、レザー・パフラヴィー氏は8日、イランの国民に向けペルシャ語でメッセージを送り、抗議デモ参加者に連帯を表明。同時に、トランプ米大統領に対し、介入を求めた。同氏は10日には、全国的なストライキを呼びかけた。ただ、同氏はここに入り抗議デモ者に対して暴動化しないように、自制を呼びかけ出している。ちなみに、亡命先の米国からの同氏のメッセージに対し、イラン国民の中には歓迎する声がある一方、時計の針を元に戻すことはできないとして、現体制での改革を進めていくべきだという声が強い。
1979年、亡命先のパリから帰国したホメイニー師によるイスラム革命後、聖職者支配の専制体制がイランで構築され、今日まで続いてきた。国内の反体制派指導者や組織は国外に亡命していった。国内には反体制派と呼べる指導者、グループは存在しない。
イランで抗議デモが今後も続くようだと、ハメネイ師の亡命、ムッラー政権の崩壊へとつながる可能性は排除できない。ちなみに、ハメネイ師の後継者と見られたライシ大統領は2024年5月19日、搭乗していたヘリコプターの墜落事故で死去した。後継者候補者が集まっていた同国安全保障に関する最高意思決定機関「国家安全保障会議」のメンバーの半数はイスラエル軍の攻撃で殺害された。有力後継者というべき人物がいなくなった。
ハメネイ師が亡命すれば、一時期的に政治的空白が生じる可能性が考えられる。その場合、現政権内の穏健派による政権が発足するかもしれない。イラン国軍(アルテシュ)の動向も無視できない。イラン国軍が抗議デモ参加者に連帯を表明し、国民の支持を得れば、ハメネイ師を失ったイスラム革命防衛隊(IRGC)の暴発を阻止できるかもしれない。
いずれにしても、トランプ米政権が軍事介入するとしても限定的なものとなるだろう。米国側が暫定政権の首班にパフラヴィー氏を担ぎ出すシナリオもあり得る。ただし、イランでは王政支持者は国民の約20%前後といわれ、国民の意見は多様化・分断されている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






