
Rudzhan Nagiev/iStock
この記事では、GDP統計として知られる国民経済計算のうち賃金・俸給についてご紹介します。
1. 賃金・俸給とは
国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)は、経済活動別の付加価値の合計(生産面)や、消費・投資といった支出の合計(支出面)と共に、給与・利益といった分配の合計(分配面)でもあります。

労働力を提供した雇用者への分配である雇用者報酬は、賃金・俸給(Wages and salaries)と、雇主の社会負担に別れます。
雇主の社会負担とは、社会保険料の会社側負担分など、直接雇用者に支払われるわけではない費用負担です。
賃金・俸給が実際に支払われる給与となります。
内閣府の説明資料によると、次のように解説されています。
「賃金・俸給」については現金と現物の給与の双方を含む。このうち現金給与は、所得税や社会保険料のうち事業主負担分等の控除前の概念であり、一般雇用者の賃金、給料、手当、賞与等のほかに、役員報酬(給与や賞与)、議員歳費等も含まれる。
「2008SNA に対応した我が国 国民経済計算について」より
雇用者は、一般企業で働く労働者だけでなく、個人事業主以外の全ての働く人を指します。
公務員や、国会議員、会社役員なども雇用者で、所属する組織から受け取る対価が全て賃金・俸給です。
俸給は元々公務員の労働の対価として支払われるものとして使われてきた言葉だそうです。
本ブログでは、これらを総称して一般的な「給与」という用語を用いる場合があります。

図1 所得の発生勘定 日本
国民経済計算より
日本のGDP分配面(所得の発生勘定)における賃金・俸給は、全体の半分近くを占める大きな項目です。
1997年のピーク254.5兆円から減少傾向が進み、近年ではやや増加していて2023年では254.8兆円となって当時のピークを越えています。
日本では給与総額そのものが停滞してきたことになります。
一方で、個人事業主は大きく減少してきましたので、労働者全体の所得総額としては更に減少傾向が強かったことになります。
2. 日本の平均給与
この賃金・俸給から、日本の雇用者の平均給与を計算する事ができます。
つまり、国民経済計算にて集計される統計値から、次のような計算が可能です。
平均給与 = 賃金・俸給 ÷ 雇用者数
実際に計算してみた平均給与と、他の統計データから得られる平均給与を重ねて確認してみましょう。

図2 平均給与 日本
国民経済計算等 より
図2は国民経済計算から計算した平均給与(青)と、他の経済統計データから計算した平均給与です。他の統計調査から計算した平均給与の動きともほぼ合致している事が確認できます。
日本の平均給与は1997年の449万円をピークにして減少傾向が進み、2012年の384万円を底にして緩やかな上昇傾向に転じています。
ただし、2024年でも430万円と当時のピークを越えていません。
男性労働者の各年齢階層で平均給与が下がっていたことに加えて、主にパートタイム労働者として働く女性や高齢労働者が増えてきたことが関係しているようです。
各統計調査における平均給与は次のように計算しています。
国民経済計算:賃金・俸給を雇用者数で割った数値
OECD:賃金・俸給(Wages and salaries)を雇用者(Employees)で割った数値
毎月勤労統計調査:現金給与総額(月額) x 12の数値
民間給与実態統計調査:給与総額を給与所得者数で割った数値
法人企業統計調査:給与総額(役員・従業員の給与・賞与の合計)を労働者数(期中平均従業員数+期中平均役員数)で割った数値
内閣府の国民経済計算で扱う賃金・俸給は、OECDのデータとほぼ一致し、そこから計算される平均給与は特に毎月勤労統計調査から計算される平均給与と近いようです。
法人企業統計調査や民間給与実態統計調査から計算される平均給与よりも、若干上振れしているようです。
3. 日本の平均時給
国民経済計算では雇用者の平均労働時間も集計されています。
年収換算の平均給与を平均労働時間で割れば、平均時給が計算できます。
パートタイム労働者が拡大してきた経緯を考えると、平均時給で見た方が、労働の対価が上がったか下がったかをより的確に確認する事ができそうです。
平均時給 = 賃金・俸給 ÷ 雇用者数 ÷ 平均労働時間

図3 雇用者の総労働時間・ 平均労働時間 日本
国民経済計算より
日本の雇用者の雇用者数、総労働時間、平均労働時間をまとめたのが図3です。
日本の人口は減っていますが、個人事業主や現役世代男性の雇用者が減った一方、それ以上に高齢や現役世代女性の雇用者が増えてきました。
その結果、雇用者数は右肩上がりで増加しています。
一方で、増加してきた雇用者の多くが年間の労働時間が短いパートタイム労働者です。
このため、総労働時間は横ばい傾向で推移していて、平均労働時間が減少しています。
この前提の元で、平均給与や平均時給を捉えることが重要ですね。
ただし、私たちは時間単位よりは月単位・年単位での生活が基本となりますので、平均給与の推移も重要な指標と思います。

図4 平均時給 日本
国民経済計算、毎月勤労統計調査より
図4が国民経済計算から計算した平均時給の推移(青)です。
OECDのデータから計算した数値(赤)と毎月勤労統計調査から計算した数値(緑)も重ねてみましたが、ほぼ一致する事が確認できます。
国民経済計算から計算される平均時給は、1997年の2,379円をピークに減少し、2012年の2,154円を底にして緩やかに上昇に転じています。
2024年では2,515円と当時のピークを越えています。
時給レベルでも1990年代以降は目減りしていた事になります。
ただし、近年では当時の水準を超え過去最高を更新している状況です。
4. 日本の賃金・俸給の特徴
この記事では、賃金・俸給の特徴についてご紹介しました。
日本の賃金・俸給は総額で見ても、雇用者1人あたりでも、労働時間あたりでも1997年をピークに減少傾向が続き、近年は増加しています。
労働者は消費者でもありますので、給与が減れば消費も減り、生産も減ります。
日本は長期間名目GDPが増えず、失われた30年と言われてきましたが、その様子が賃金・俸給の推移でも確認できますね。
2010年代になってやっと上昇傾向となっています。
また、日本では退職一時金の取り扱いが独特です。
長年勤めた報酬としてまとまった退職一時金が支払われます。
日々の給与は抑えておいて退職時にまとめて支給する仕組みで、雇用の流動性が低い大きな要因とされているようです。
経済統計上、退職一時金は賃金・俸給ではなく、雇用者報酬のうち雇主の社会負担に含まれます。
国際比較してみると、雇用者報酬では日本の水準は賃金・俸給よりもさらに低いようです。
退職一時金を含めた企業側の雇用負担で見れば、諸外国の方が高い事が示されています。
このあたりの取り扱いについても、今後ご紹介していきたいと思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2026年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。






