「個の時代」という名の、新しい横並び

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リモートワークが当たり前になった。「会社に行かなきゃ」が「行かなくてもいい」になった。十人十色の働き方。個人の選択が尊重される時代。

メディアは「個の時代の到来」とはしゃいでいた。ずいぶん前から「これからは個性の時代」「自分らしい働き方」と言っていたのに、実態が伴わなかった。それがついに来た、と。本当にそうか?

学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう」(前刀禎明 著)日経BP

ある講義の後、季節家電の企画担当者から質問を受けた。「納期が厳しい中で差異化するのが難しい。どうしたらいいでしょうか」と。

この質問がすべてを物語っている。

なぜ毎年モデルチェンジしなきゃいけないのか。季節家電という分類自体、今の気候に合っているのか。11月に台風が来る時代だ。秋に扇風機を使う人がいたっておかしくない。でも、みんな同じタイミングで同じような新製品を並べる。「そうしなきゃ売れない」という強迫観念。

個の時代? どこが。話を戻す。(また飛んだな)

「個の時代」と言うけど、その正体を見てほしい。

日本は列島丸ごと壮大なムラ社会だ。同一民族、同一言語。はみ出す勇気のある人間が出てこない。出てきても潰される。今回の「個の時代」だって、自発的に勝ち取ったものじゃない。

「みんながバラバラになったから、自分も一緒じゃなくて大丈夫」

これだ。これが本音だ。

社会より個人にフォーカスする。なぜ? 「今はそう考えるのが普通っぽいから」。
自分らしさを大事にする。なぜ? 「当たり前に求められる時代だから」。

同調圧力の形が変わっただけじゃないか。

Amazonで「リモートワーク チェア」と検索してみるといい。

売れ筋ランキング上位の椅子、みんな同じようなやつだ。オンライン会議用のウェブカメラも、デスクライトも、全部「お薦め」が決まっている。売れ筋情報が共有されて、みんなが同じものを買い、同じ使い方をする。

「画一的な個のスタイル」の完成。

字面を見ると矛盾している。でも、これが現実だ。

じゃあマーケターはどうすればいいのか。

……正直、分からない。分からないけど、一つだけ言えることがある。

消費者は「画一的な選択肢の中から、自分で選んだ」と思いたがっている。実際には同じようなものを買っているのに、「これは自分らしい選択だ」と感じたい。

そこを演出できるかどうか。製品やサービスから「自分らしさ」を想起させられるかどうか。

答えになっていないのは分かっている。でも、これ以上は僕には言えない。

「個の時代」は来た。それは否定しない。

でも中身を見ると、新しい形の横並びだ。昔は「みんなと同じ」が正義だった。今は「みんなと違う(ように見える)」が正義になった。

変わったのは、見た目だけだ。

……と書いて、自分でも嫌になる。希望のない結論だ。でも、嘘をついても仕方がない。まあ、いいか。読んだ人が、何か考えてくれたら。それで十分だ。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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