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近年、「不動産市場は過熱しているのではないか」という指摘が、政府や日銀の発言、マスコミ報道を通じて聞かれるようになった。しかし、この「過熱」という言葉が意味するところは、必ずしも明確ではない。現在の不動産市場を正しく理解するためには、まず政府や金融当局が何を問題視し、何を注視しているのかを整理する必要がある。
結論から言えば、政府や日銀が警戒しているのは、不動産価格の水準そのものではない。問題意識の中心にあるのは、価格がどのようなプロセスで形成されているか、すなわち市場メカニズムが実需や収益力に基づいて適正に機能しているかどうか、という点である。
不動産市場は本来、需要と供給、賃料水準、金利、建築費といった複数の要因によって価格が形成される。現在の価格上昇局面についても、建築費や人件費、資材価格の上昇、都市部における土地供給の制約、再開発コストの増加など、一定の構造的要因が存在することは否定できない。これらが新築価格や取引価格を押し上げている側面は、実務の現場でも広く共有されている。
一方で、政府や金融当局が注視しているのは、こうした実需やコスト要因を超えて、短期的な値上がり期待に基づく取引が増えていないかという点である。例えば、都市部の新築マンション市場では、建物完成前の段階で契約上の地位が転売される、いわゆる完成前転売が一部で見られる。取得者が自ら居住する意思を持たず、将来の値上がりを前提に取引が行われる場合、実需や賃料収益との関係は希薄になりやすい。
例えば、都市部の新築マンション市場では、建物完成前の段階で複数回売買される、いわゆる「完成前転売」が一部で見られる。取得者が自ら居住する意思を持たず、将来の値上がりを前提として契約上の地位を転売するケースでは、実需や賃料収益との関係が希薄になりやすい。現時点では市場全体を歪める規模にまで拡大しているとは言い難いものの、こうした取引が特定エリアに集中すれば、価格形成プロセスの健全性という観点から、政策当局が警戒感を強める可能性はある。
言い換えれば、現時点で政府や日銀が直ちに強い規制に踏み切る段階にあるわけではないものの、市場の動き次第では注意喚起や政策対応が検討され得る「イエロー信号」の局面にある、というのが実務的な読みだろう。少なくとも現状では、バブル期のように短期的・投機的取引が市場全体を席巻していると評価されているわけではなく、価格形成プロセスは概ね機能していると見られている。
もっとも、この評価は将来にわたって保証されているものではない。今後、価格上昇を前提とした短期売買が増え、実需や収益との乖離が目立つようになれば、政策当局が市場への関与を強める可能性は否定できない。その際の政策的なブレーキは、必ずしも取引規制のような強硬策とは限らず、取引実態の把握強化や金融機関への注意喚起、融資審査の厳格化といった間接的な手法が想定される。実際、過去の局面でも、政策当局は市場へのメッセージ発信を通じて、過度な期待を沈静化させてきた経緯がある。
では、不動産投資家は何を注視すべきだろうか。取引回転率や短期保有比率といった指標は、一般の投資家が直接把握することは難しい。一方で、より実務的で確認可能な指標として、ネット利回りと長期金利との関係、表面利回りと実態利回りの乖離、エリア別の人口動態や商圏売上と逆行する賃料上昇の有無などが挙げられる。これらは、価格形成が実需や収益力に裏付けられているかどうかを判断する手がかりとなる。
そもそも、ここで一点確認しておきたいことは、政府が不動産投資そのものを否定しているわけではない点である。つまり、土地基本法の理念に則り、中長期的な視点に立ち、賃料収益や利用価値に裏付けられた不動産投資までを抑制しようとしているわけではない。むしろ、そのような健全な投資行動が市場の安定に資するという方向性は、住宅政策や都市政策全体からも読み取ることができる。
要するに、不動産投資は本来、中長期的な戦略に基づいて行われるべきものである。安易に投機的取引に加担するのではなく、政府や日銀が発するシグナルを「規制強化の予兆」と短絡的に受け取るのではなく、その背景にある問題意識——価格形成プロセスの健全性——を冷静に読み解くことが、これからの不動産市場と向き合ううえで、より重要になっていくだろう。






