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先週、イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁が、「ネットゼロ政策は世界経済を減速させる」と発言しました。英国の中央銀行総裁が、脱炭素政策そのものを成長阻害要因として公に認めるのは極めて重大なニュースですが、相変わらず日本の大手メディアはまったく報じてくれません。
ベイリー総裁は、ネットゼロに向けたエネルギー転換や規制対応が、供給制約やコスト上昇を通じてインフレ圧力を高め、結果として成長率を押し下げていると述べています。これは世界中で金融・政策当局が喧伝してきた「脱炭素対策は経済成長と両立する」という建前を撤回したに等しい驚天動地の発言です。
ここで重要なのは、イングランド銀行こそが中央銀行による気候介入、いわゆる脱炭素金融を世界に広めた張本人だという点です。
2013年から2020年まで総裁を務めたマーク・カーニー氏(現カナダ首相)は、気候変動リスクを金融安定の中核に据え、中央銀行がネットゼロを主導すべきだという世界の潮流をつくり出しました。そのカーニー氏から引き継いだベイリー総裁が「ネットゼロは経済の足を引っ張る」と認めたのです。
一方、我が国では日本銀行が気候変動オペ(気候変動対応を支援するための資金供給オペ)を継続し、GPIFもESG指数を年金運用に組み込み続けています。日本政府もGX(グリーントランスフォーメーション)で脱炭素と経済成長の両立をめざすなどといまだに言っています。
なお、カーニー氏は国際的なネットゼロ金融ネットワーク「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」の設立者としても知られています。その後、GFANZの傘下組織としてつくられたNZBA、NZAMIなどにこぞって日本の金融機関が参画し、融資先である日本企業にもネットゼロが強制されることにつながりました。
しかしながら、カナダ首相になった2025年に変節し、カナダ国内で炭素税の廃止、EV義務化見直し、化石燃料への投資再開など、ネットゼロを否定する政策を次々と打ち出しています。
昨年は、あのビル・ゲイツ氏が気候危機・脱炭素の主張を転換したことが大きな話題になりました。
さらに、世界中の金融機関がESG投資の根拠として参照してきた「金融システムグリーン化ネットワーク(NGFS)」シナリオが科学誌ネイチャーから欠陥論文として撤回されました。このNGFSシナリオは当然、GPIF、MUFG、日本生命、SOMPOなど日本国内のほぼすべてのESG商品も採用しています。
日本の政策当局や金融当局、機関投資家は、海外の成功例だけを都合よく引用するのではなく、上述のような“都合の悪い現実”にも正面から向き合うべきではないでしょうか。脱炭素金融の旗振り役だった英国中央銀行が現実を認めた今、日本の金融関係者も虚心坦懐に見直すべき時期が来ているはずです。
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