高市首相の「円安で外為特会はホクホク」という発言が大きな反響を呼んでいる。その後、本人が「一部報道機関で誤解がある」と言い訳したが、これは誤解ではない。彼女は明らかに「円安は望ましい」と発言したのだ。日経がその全文を紹介している。
高市首相「円安で外為特会ホクホク」 衆院選の応援演説、該当部分の全文https://t.co/wMHKXRWvoh
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) January 31, 2026
「国内投資が低い」原因は為替変動ではない
問題は「ホクホク」の部分ではなく、彼女がいつもいう「為替変動に強い経済」にある。
国内投資がとことん低い。だからよその国は今もう何をしているかって言ったら、海外に投資してるんじゃなくて、自分の国内に投資をする。自分の国内で工場をつくる。自分の国内で研究開発拠点をつくる。だから、自分の国内で投資をしているんです。ここは日本は弱かった。ガラッと変えようとしてます。高市内閣で。だって為替変動にも強い経済構造をつくれるではないですか。国内でつくるんだから。
国内投資が低いことは事実だが、それは為替レートのせいではない。高市氏もいうように民主党政権で円高になったとき貿易収支は赤字になったが、安倍政権で円安になっても貿易赤字は続いたのだ(図1)。円安にして国内投資を増やそうという高市氏の目的は間違っている。
図1(日本経済新聞)
さらに問題なのは、国内に投資して為替変動に強い経済をつくるという発想だ。たとえば国内メーカーが台湾でつくっている液晶テレビを国内生産に切り替えるとコストが2倍ぐらいになるので、今から国内投資する電機メーカーはない。テレビに国内投資させるには、輸入規制するか高い関税をかければいい。これはトランプ関税と同じ重商主義である。
それでもだめなら、政府が国営テレビ工場をつくるしかない。それが経産省の失敗した産業政策である。1980年以降の大型プロジェクトは34件あったが、成功したプロジェクトは一つもない。官僚が企業経営者よりビジネスをよく知っているはずがないからだ。
円安は労働者からグローバル企業への所得移転
ただ産業空洞化がなぜここまで進んだのかという問題は重要である。本質的な問題は国際競争力の高い製造業が海外に逃げてしまい、国内には規制に守られて生産性の低い非製造業だけが残ったことだ。
結果的には、アベノミクスは大幅な富の海外移転だった。日本の対外純資産は418兆円と、世界最大である。円安誘導で輸出を増やそうという日銀の黒田総裁のねらいがはずれ、大企業が海外生産して収益を海外で再投資するようになったためだ。これは早川英男氏も指摘する通りだ。
このため日経平均株価(グローバル企業が多い)は上がるが、国内の中小企業の業績は不振で、賃金も上がらない。所得収支は国内の雇用に結びつかないので、円安になっても国内の雇用は増えず、実質賃金は下がった。円安は労働者からグローバル企業への所得移転なのだ。
輸出企業の収益が上がる一方、円の購買力を示す交易条件が悪化し、海外から原料輸入するエネルギー産業や国内製造業の収益は悪化した。これは名目為替レートに物価上昇率をかけた実質実効為替レートでみると明らかで、円の実質価値は2012年のほぼ半分になった。世界の中でみると、日本人の実質資産は半分になったのだ(図2)。

図2 実質実効為替レート
これほど短期間に通貨価値が半減したケースは珍しい。1985年のプラザ合意で、円は1ドル=250円から3年間で120円に2倍になったが、今回の円安はその逆だ。安倍政権が過剰流動性でグローバリゼーションを加速して企業を海外に追い出した自国窮乏化の結果である。
高市政権のバラマキ財政は、アベノミクスの劣化コピーである。企業の国際競争力という本質的な問題を無視して政府が国営工場をつくり、円安にして輸出しやすくしようというのが彼女のねらいだろう。それによってグローバル企業はホクホクだが国民は貧しくなり、財政が悪化して日本の衰退はさらに加速するだろう。





