賢人を真似ることと自分で考えること

先日、あるカラオケ番組で激ウマの方が音程バーを一つも踏み外さず全部クリアし頂点に立ちました。見ていてはらはらし、全曲制覇した時、音感など天性の才能を感じました。しかし、私は敢えてこれにある疑問を呈したいと思います。

音程バー通りに歌うことにどれだけの価値があるのか?

であります。オリジナルの曲を忠実に再現するのがこの番組の極みとなるのですが、それは言い方を変えればオリジナルよりうまく歌うことはできないとも言えないでしょうか?

クラッシック音楽では楽譜通りに演奏するところと即興演奏が挿入される場合があります。演奏者が即興でオリジナルにはないパートを奏でるのです。あるいはロックコンサートなどでは通常の録音盤では聞くことができないベースやギター、ドラムスなどの個人演奏を披露するシーンもしばしばあります。まさに一回限りの真剣勝負でそれこそ、演奏者の腕の見せ所と言えましょう。

芸術家はいかにクリエーティブになれるか、これがキーであります。誰もやっていない領域に挑戦してこそ、本当の能力ともいえないでしょうか?

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先日ある本を読んでいて衝撃が走りました。ドイツの哲学者、アルトゥール ショーペンハウアー氏が1851年に書いた「読書について」という短い文庫です。1851年は日本では江戸時代末期で黒船来航が1853年ですからそれより前に書かれたものです。お時間がある人はその訳本をちらっとでもご覧になるとお分かりになりますが、これが最近書かれた書籍だと思って読んでもほとんど違和感がないのです。

それ以上に衝撃だったのはショーペンハウアー氏は「読書とは他人にものを考えてもらうことである」「読書にいそしむかぎり、実は我々の頭は他人の思想の運動場にすぎない」と断言しているのです。つまり読書家とは他人の考えをひたすら集めてくるだけだと。現代社会に当てはめるなら「データを集めるだけならAIにやらせればいいだろう」と言わんばかりともいえないでしょうか?彼は良書だけを考えて読む、いや読んで考えよと言っているのです。決して多読せよとは言っていないのです。

もちろん一哲学者の言葉でありどこまで皆さんの心に響くかは別です。ショーペンハウアー氏は人生後半になって少し評価が上がってきたものの大きくそれが見直されたのは死後からであります。

考えてみれば我々日本人は賢人の行動や言動を深く学ぶことを歴史的にずっと行ってきたと思います。江戸時代の寺小屋でも吉田松陰でも蘭学でも、更には現代では名経営者とされたホンダ、ソニー、松下などの創業者の書籍は読み継がれます。私は日本人は賢人をトレースする文化が非常に強いのだと思います。この分かりやすい例がカラオケであり、カラオケで点数を競うのもトレーサビリティが基準になります。一方、アメリカの歌手が他人の歌を歌う時はどれだけ自分のイメージを取り込み、自分の曲にするかが決め手で時としてオリジナルの曲を凌駕することすらあります。まさにクリエーションの世界ですね。

私はこのブログを書く際にネタとなる報道は見ますが、それを深追いすることはほとんどありません。分析や解説も読まないわけではないですが、事実を押さえる程度にしています。私が今日までに書いてきた内容は間違っていることも多々ありますし、微細については怪しいこともありますが、方向性はさほど外していないと思っています。それはほとんどが私が自分で考えて書いているからで大局を見てイシューがどこにあるか押さえるようにしているからかもしれません。仮に私が様々な情報、それこそ週刊誌や専門誌、更にはSNSまでチェックしてからブログを書け、と言われたら手が動かず、書けないでしょう。それはショーペンハウアーがいうように雑音だらけで本質が見えなくなるからともいえるのです。

大学の先生の著書というのはどれだけ多くの参考文献を参照しているかが評価のポイントともされます。しかし、ものの見方によってはそれではAIに本を書かせた方が良いということになりはしないか、と私は疑問を持っています。大学の先生は最高水準の専門知識をどれだけ深掘りし、それがどれだけ論理的裏付けのもと、オリジナリティあるストーリー展開ができるかが大事得です。しかし、時として新書を手にしても「これはまとめ集?」と思えるようなレベルの著書もあります。

物事にどうアプローチし、どうとらえるかは人それぞれですが、私は自分で考える癖だけは意識し続けたいと考えております。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年2月8日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。