現役世代の無党派層が「老人デモクラシー」を打破して政治を変えた

今回の総選挙で各政党から流された広告の中で、いちばん印象的だったのは、中道改革の動画だった。

中道は団塊の世代に呼びかけた

ここで野田代表が呼びかけている「あの頃」を覚えている人は、団塊の世代から60代までの老人である。それはマーケティング的には正しい。投票者のメディアン(中央値)に合わせることによって投票は最大化される、と教科書に書いてあるからだ。

日本の投票者のメディアンは約60歳である。もう定年で、年金をもらう年齢だ。そういう有権者に向かって、野田氏は呼びかけたのだ。図のように中道の支持率は70代では17%なのに対して、30代ではわずか1.9%。投票率も老人のほうが高いので、若者に呼びかけても得票に結びつかない。

小選挙区の勝敗を決めるのは現役世代の無党派層

しかし結果は、この老人マーケティングが裏目に出た。党の方針に忠実な公明党支持者は中道の比例代表候補に投票し、2議席増えたが、小選挙区289議席のうち、わずか7議席の大惨敗だった。

メディアン・ボーターの理論は、比例代表のように支持者と当選者が正確に対応する場合には有効だが、小選挙区のようにマージナルな浮動票が選挙結果を大きく支配する選挙には通用しないのだ。

小選挙区でも公明党の支持者は比例代表で中道に投票したが、立民の支持者は小選挙区で自民に投票した。特に大都市ではその傾向が強く、東京では30の小選挙区すべてで自民党が当選する地滑り的な圧勝だった。

おもしろいのは、与野党の中で唯一消費減税に反対し、社会保険料の引き下げと老人の窓口負担3割を公約したチームみらいが11人全員当選して大躍進をとげたことだ。これは老人をターゲットにすれば勝てるという老人デモクラシーの常識を破った。

少なくとも都市の無党派層に対しては、消費減税より現役世代の社会保険料の負担を下げる(老人への社会保障給付を減らす)ことを現役世代は望んだ。今までそういう意思が老人デモクラシーにはばまれて実現しないとあきらめていた現役世代が自民党に投票したからだ。

老人デモクラシーは終わった

本質的な問題は、積極財政か緊縮財政かではない。急速に高齢化して坂道を転がり落ちる日本経済に、どうやってブレーキをかけるかである。チームみらい以外の与野党は、転がり落ちる老人トラックの荷物を増やそうとしている。それを公然と宣言したのが中道だった。

消費減税を提案しているのは国民民主も維新も同じだ。それは所得税をほとんど払わない年金受給者のための政策であり、国民民主に至っては、年金控除に加えて基礎控除を最大178万円に上げ、すべての年金受給者を「非課税世帯」にする、あからさまな老人デモクラシーを公約している。

こうした老人マーケティングを、今回の総選挙は打ち砕いた。現役世代は数の上では老人より少ないが、小選挙区の勝敗を決めれば政治を変えられるのだ。閉塞状態だった日本の政治に光が見えてきた。

ただ高市政権が現役世代のための政策を打ち出しているわけではない。公約はゾンビ企業の補助金と昭和の産業政策だが、選挙ではベッセント財務長官に怒られて消費減税を封印したことが幸いした。高市氏は何も知らないが、この民意を自民党の心ある政治家は受け止めているだろう。今後、高市政権が消費減税やゾンビ補助金などの老人政策を打ち出したら民意は離れる。

そして中道が惨敗したことは、姑息な老人マーケティングが敗北し、現役世代のための政策を打ち出さないと野党に活路はないということを示している。選挙目当ての中道改革連合は解党し、連合が仲介して労働者の利益を代表する新党を結成してほしい。