
首相官邸HPより
消費者物価がもう5年連続で2、3%も上がり、モノの価格が上昇して国民が払う消費税は増える。企業は価格が上がれば売り上げも増え、それによって企業収益が史上最高を更新し、法人税収も増大する。物価高対策で名目賃金を増やしてもらった勤労者が収める所得税も増える。
これは「インフレ税」と言われる。日銀にも勤めた経験を持つ渡辺努・東大教授は近著「インフレの時代」(中公新書)で、インフレによる税収増(インフレ税)を試算している。
「政府は180兆円のインフレ税収を得る一方、日銀は保有国債(価格下落)の損失が90兆円に上り、政府・日銀を統合すると、政府のネット取り分は90兆円となる」と、渡辺教授は説明している。
2%インフレが前提だから実際はもっと多い
①政府債務は1100兆円②政府債務の平均残存期間は9年③物価上昇率がゼロから2%に上昇④国債金利は2%ポイント上昇し、新発債の利払いも同じだけ増加――などの前提条件を置いて試算している。その結果が「インフレによる国債残高の目減りが180兆円、日銀の損失を政府がカバー(日銀納付金の減少=税外収入減少)すると、差し引き90兆円がインフレ税収となる」というものだ。
政府債務(国債発行残高)の実質価値がインフレで下がり、それをインフレ税収とする。個別の積み上げではなく、インフレによる債務削減額を計算して弾き出している。政府債務(国債発行残高)を全額ではなく、半減で十分という考え方もあるだろう。
すでに「インフレ税」は発生している。国家財政に入る税収を見ると、22年度に70兆円を超え、23年度72兆円、24年度75兆円、25年度78兆円、26年度83兆円(予算案ベース)など、7年連続で増えている。この間、税制改正(税率引き上げなど)はほとんど行われていない。実質経済成長率は25年度0.9%、26年度1%程度(予想)に過ぎず、インフレの多くはコストプッシュ型インフレの結果だ。
渡辺教授の試算はマクロ計算によるものだ。インフレ率は2%より高いし、実際の物価上昇は生鮮食品などを加えると、インフレ税収はもっと増える計算になるだろう。厳密なインフレ税額の計算ではなく、仮説を立てインフレ税を試算してみた点に価値がある。
「インフレ税」という表現を避ける高市首相
こうした「インフレ税」について、高市首相は口にしたことはない。全18閣僚向けに出した共通指示書という名の命令調の文章では「戦略的に財政出動を行うことにより、暮らしの安全・安心を確保し、所得を向上させ、消費マインドを改善し税収を増加させる」と表現している。つまり国民の反発を買うであろう「インフレ税」を禁句にし、「強い経済の実現」により税収を増加させるという説明だ。それができれば、コストプッシュ型インフレより望ましい。
高市氏のいう「強い経済」はまだ実現していないのに、税収が7年連続で増えている。この間、実質経済成長率は0〜1%に過ぎないため、コストプッシュ型インフレによる多額の「インフレ税」が発生していたことになる。実質的な経済力が高まり、実質賃金も増え、税収が増えるのが健全な姿だ。現在の姿は、消費者、勤労者らの負担によるインフレ税である。
アベノミクス推進の中心人物であった浜田宏一・エール大名誉教授は高市首相に警鐘を鳴らしている。高市首相は「アベノミクスを継承する」と明言し、積極財政(財政拡張)や成長戦略を推進する考えだ。それに対し、浜田氏は高市財政を全面的に否定する寄稿を月刊誌に寄せている。
アベノミクスの継承は間違い
「安倍氏の時代はデフレと円高だったので、超低金利政策と財政膨張政策をとった。高市氏の現在はインフレと円安(通貨価値の半減)だ。そこで財政拡張をやったらインフレが進んでしまう。それが続けば不況になる」と述べている。アベノミクスの負の遺産で国債利払い費が急増してしまうため、政策金利もなかなか上げられない状況だ。
高市財政がやっているのは物価高対策ではなく、インフレ促進政策だとの批判が続いている。そうした指摘は新聞、テレビ、ネット論壇でも連日あふれている。米国のベッセント財務長官も高市財政を懸念している。海外投資家も高市財政による赤字増大、市場金利の上昇、インフレ促進で「日本売り」「日本国債売り」が起きると警戒している。
高市首相はそれを知らないはずはない。それにもかかわらず政策方向性を変えないのは、物価高抑制ではなくインフレ状態を促進・継続し、インフレ税を徴収したいからに違いないと私は思っている。いくら批判しても積極財政を修正しないのはそのためだろう。狙いはインフレ抑制ではなく、持続的なインフレにしたいという本音だろう。
財政独立機関を設けチェックすべきだ
本来ならば、OECD38か国中31か国が設けている独立財政機関(日本だけにない)を設置しチェックすべきだ。高市氏は「責任ある積極財政」と唱えるならば、「独立財政機関を設置し、私の財政政策を検証してもらう」と約束しなければならないところだ。
それをしないのは、独立財政機関に巨大な負の遺産を残したアベノミクスや、高市氏が進めようとしている「インフレ税」などが批判されるからだ。高市氏は意図してインフレ促進、インフレ税の徴収を狙っているため、こうした機関は邪魔になるのだ。
もっとも、与野党ともに税制改正、増税路線を嫌っているため、「インフレ税しかない。インフレ税収を積極財政の財源にするしかない」が高市氏の本音なのかもしれない。
問題は「インフレ税」をいつまでも続けることはできないという点だ。インフレに伴い市場金利が上昇すれば、国債利払い費が急増していく。25年度の利払い費は10.5兆円、29年度21.6兆円で、国債費総額では41.3兆円になり、社会保障費(41兆円)を上回るという。
そのほか飲食料品の消費税ゼロ(財源5兆円)、防衛費増(GDP比1%増につき同5〜6兆円)、ガソリン税の軽減や教育費無償化(同2.2兆円)などに、いくら「インフレ税」が転がり込んでも足りないだろう。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年2月20日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。







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