山霧に守られた蒸溜所へ。宮城峡で感じた竹鶴政孝の夢

東北地方を旅しています。仙台空港に降り立った後、電車を乗り継いでやってきたのは仙台市の山間部にある作並駅。宮城県と山形県の間の山間部は温泉が多く、ここ作並もバスで少し行ったところに作並温泉の温泉街が広がります。

温泉が有名な作並ですが、鉄道ファンにとって有名なのはこの駅名標。某北の国のニュースで出てきそうな雰囲気を醸し出す、独特の世界観を持った駅名標です。

作並駅を出た先に、1台のマイクロバスが止まっています。今回はこのバスに乗って温泉ではないとある場所に向かいます。バスには海外から来た人を中心に多くの観光客が乗っており、補助席まで使って満員。この日は金曜日なんですが、大盛況です。

そんな満員のバスが向かったのは、ニッカウヰスキー宮城峡蒸留所でした。以前、ニッカウヰスキーの余市蒸留所に行ったことがあったんですがそこで仙台にも蒸留所があることを知り、是非行ってみたいと思っていたのです。

293 マッサンの愛した街・余市でウィスキーを堪能する。|ミヤコカエデ(Miyako Kaede)
この夏は久しぶりに北海道を旅しました。 大学時代4年を過ごし、その後も何度か足を運んだ北海道ですが、まだ訪ねていない街は数多くあります。 その一つが小樽市の隣に位置する余市町。 今回余市を訪ねようと思ったのは、この町を通る函館本線が近い将来...

複数の蒸留所で製造されたウィスキーをブレンドして、より味わい深いウィスキーを作りたい。そう考えていたマッサンこと竹鶴政孝の夢を実現するため、息子の竹鶴威らが探し当てたのが仙台の奥にある広瀬川と新川(にっかわ)の合流点にある作並地区でした。

2つの川がぶつかるこの場所は1年を通じて霧が発生し、適度な湿度を保った空気が乾燥から樽を守ってくれる、ウィスキーの醸造にとって最適な場所だったのです。1969年以来50年以上にわたりこの地で余市とは異なった製法で国産ウィスキーを醸造し続けています。

受付を済ませると、ここで製造された「宮城峡」ウィスキーがお出迎え。製造過程などを紹介するパネルなどもビジターセンターに展示されています。

わたしは12:30からのツアーに参加して、蒸留所の中を案内していただきました。工場見学と試飲で70分のコースは無料で参加することができます。今年の東北は雪が多いので白銀の世界の蒸留所を見られるかと思ったのですが、このところ暖かい日が続いたので、雪はほとんど溶けていました。この方が歩きやすくていいですね。

工場は煉瓦造りで青空に映えます。奥の建物で発酵や蒸溜などが行われています。ウィスキーの原料となる水を始め、この蒸留所内で使われるすべての水は近くを流れる新川の水を使用しています。新川の水が濁ると蒸留所のすべての機能が停止するのですが、取水の入り口にあたる場所で金魚を飼っており、彼らに異常が発生したらすぐに取水が停止するルールになっているそうです。

ちなみに新川(にっかわ)とニッカは似ていますが、ニッカの社名は旧社名の大日本果汁から取ったものでまったくの偶然です。

蒸留所の真ん中を貫く道は、その先の鎌倉山が正面に見えるように設計されています。ちなみに鎌倉山、別名ゴリラ山と呼ばれています。ゴリラが横を向いている姿に見えるからだそうですが…見えますか?

蒸溜棟を案内されましたが、その先にニッカ名物のあのおじさんがいました。札幌・すすきのの交差点にもいるこのおじさんはKing of Blenderとして名を馳せたWilliam P. Lowrie卿をモデルとしたものです。

こちらがウィスキーを蒸溜するポットスティル。ここで水よりも低い温度で気化するアルコールを抽出していきます。ちなみに余市のポットスティルと異なり、下部が鏡餅のように丸くなっています。

宮城峡のウィスキーはここで蒸溜したアルコールを還流させて間接過熱を行うのが特徴です。これによってより上品で柔らかい余韻の残るウィスキーが生まれます。竹鶴は余市と宮城峡で個性の違うウィスキーを製造し、これをブレンドすることで単体では出せない複雑で奥行きのある完成度の高いウィスキーを製造を目指したのです。

工場見学の最後は樽詰めされたウィスキーが眠る場所に案内されます。

ウィスキーは樽の中で何年も眠ることで美しい琥珀色に色づいていきます。樽の中で少しずつ気化して樽から出ていくので、長く寝かすほど残るウィスキーは少なくなってしまいます。これを「天使のわけまえ」といいますが、長く眠らせたウィスキーがとても高価なのにはこういった理由があるのです。

さて、50分ほどの工場見学を終えたあとはいよいよ試飲タイム!

今回無料試飲で提供されたのはニッカ伝統のアップルワインと、一昨年販売を開始したニッカフロンティア、そして宮城峡蒸留所で製造される「宮城峡」の3種類でした。これだけ飲んだだけでも製造方法やブレンド方法が違うだけで味が全く違うことに奥の深さを感じさせてくれます。

おかわり(有料)で違うウィスキーも飲んでしまいました。この日は金曜日。みんながあくせく働いているさなかに飲む酒は一番うまいです。

ウィスキーをこよなく愛し、高い品質のウィスキーづくりに妥協を許さなかった竹鶴政孝。その妥協を許さない姿勢があったからこそ余市だけではなく、さらなる完成度の高いウィスキーの製造を目指して宮城峡蒸留所が造られました。竹鶴のウィスキーに注ぐ情熱を感じながら、仙台の奥座敷、作並の宮城峡蒸留所を訪ねてもらいたいと思います。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2026年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。

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