カナダのマーク・カーニー首相が世界経済フォーラムで発した演説は、経済と安全保障で異なる外交姿勢を鮮明にしているとして大きな注目を集めた。演説では、中堅国として独自の戦略的自立——特に中国やその他の大国が激化させる大国競争の中で、同盟に依存し過ぎず自主性を強める必要性が訴えられたという。
カーニー政権は貿易面で、これまでの米国中心の経済依存からの脱却を目指している。米国との通商協定(USMCA)を再検証する中で、「米国頼み」の状況を見直すべきだという声が政内外で強まっている。実際、トランプ政権による関税引き上げや貿易圧力を受けて、カナダは対米依存を減らすためインド、オーストラリア、日本との連携強化を進めている。
また、昨年の訪中を機に中国との間で主要な農産物や電気自動車の関税引き下げ合意を取り付けたことは、カナダが米国以外の市場を積極的に開拓している象徴的な成果といえる。こうした動きは、米国との貿易摩擦が激化する中、「米国以外でもやっていける」という姿勢の表れでもある。
だが、その一方で安全保障の局面ではカナダは依然として米国との枠組みに大きく依存していることが浮き彫りになっている。2月28日、米国とイスラエルがイランに対して軍事行動を開始した際、カーニー首相は「カナダはイランの核兵器獲得を阻止するための米国の行動を支持する」と表明した。ただし、カナダ自身が軍事的に直接関与する計画はないとしつつも、立場としては米国の外交・安全保障政策を支持するというスタンスを示した。
この姿勢には、政府内外から皮肉や批判も出ている。カナダ国内の意見では、カーニー首相が貿易面で米国に対峙する一方で、安全保障に関しては米国の立場をなぞるだけだという評価も少なくない。ある保守派議員は、「カナダが米国との関係から完全に離脱することは不可能であり、中国との関係だけに頼るべきでない」と警告している。
この二重性は、カナダの外交が「経済的には独自路線を模索しつつも、安全保障では米国依存から脱却できない」という現実を如実に表している。米国との貿易では「喧嘩を売る」姿勢を打ち出し、中国との関係構築に努める一方で、中東の安全保障については米国の態度を支持せざるを得ないという構図は、同国が直面する現実的な限界を示しているとも言える。
この皮肉は、国際社会全体が直面するジレンマを反映している。大国と距離を取ろうとする中堅国は、経済的に多様な連携を模索しながらも、安全保障の面では従来の大国枠組みに依存するほかない──という現実だ。自由貿易や経済多角化を掲げる一方で、軍事的な安心と抑止力を求めるならば、米国という圧倒的な安全保障プレーヤーなしでは成り立ちにくいという矛盾がそこにはある。
カナダの現政権が掲げる「戦略的自主性」は、理想論として魅力的だ。しかし現実には、経済と安全保障という二つの大きな柱を同時に独立させることは容易ではない。貿易で米国の圧力に異議を唱えながらも、安全保障では米国の影響力を受け入れざるを得ないという状況は、中堅国外交の複雑さを改めて示している。

マーク・カーニー首相とトランプ大統領 2025年10月ホワイトハウスXより







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