米・イスラエル両国軍の対イラン戦争がもたらした様々な波紋

米軍とイスラエル軍が先月28日、イランへ軍事攻撃を開始してから4日で5日目に入った。想定されたことだが、様々な波紋が周辺国、関係国に拡散している。世界の原油・ガス輸送の約30%を占めるペルシャ湾とホルムズ海峡が封鎖された場合、原油価格は1バレル100ドル以上に急騰する可能性があると予測されている。3日には、原油価格は1バレル85ドルを超え、2024年7月以来の高値となった。日本を含む欧米諸国はエネルギーの高騰、インフレの急騰といったシナリオを予測し、その対応に追われている。

ロマン・アルチューヒン財務長官と実務会議するプーチン大統領、2026年3月3日、クレムリン公式サイトから

興味深い点は、ロシアは米・イスラエル軍のイラン軍事攻勢を国際法の違反と声高らかに批判する一方、イランや湾岸諸国が原油・ガスを輸出できなくなったことを受け、原油・ガス価格が高騰することが想定されるだけに、ほくほく顔といったところだろう。生産量の増加と原油価格の上昇が歳入増加に寄与すると見込まれるからだ。

ロシア産ガスをトルコへ輸送し、そこから一部をヨーロッパへ輸送するトルクストリームとブルーストリームの両パイプラインの合計輸送能力は年間475億立方メートルだが、2025年にはその半分にも満たない状態だった。イラン戦争の影響で、欧州産天然ガス価格は3日に前日比30%上昇していることもロシア側にとって朗報だろう。

ロシアは当初、今年の財政赤字を約420億ユーロと見込んでいた。石油・ガス収入の減少により、財務省は1月には既に約190億ユーロの赤字を認めざるを得ず、予算計画は深刻な危機に瀕していた。対ウクライナ戦争はロシア予算の大部分を費やしている。約1800億ユーロが軍事、兵器、国家安全保障、警察部隊に充てられており、これは総支出の約40%を占めている。しかし、イラン戦争が勃発したことから、世界の原油・ガスの価格が急騰、たとえ制裁下にあるとしてもロシア側にもその恩恵があるというわけだ。

ただし、イラン戦争はロシア側にも戦略的、外交・政治的に大きなダメージを与えている点は間違いない。イランはロシアにとって軍事パートナーだ。ロシアのプーチン大統領は2024年10月11日、トルクメニスタンの首都アシガバットでイランのペゼシュキアン大統領と会見した際、「イランとの関係は私たちにとって優先事項であり、両国関係は非常に順調に発展している」と強調している。しかし、イランが米・イスラエル軍の攻撃を受けて窮地に陥った時、ロシアは「主権を有する独立した国連加盟国に対する計画的な武力侵略行為だ。軽率な措置であり、国際法に違反する」と述べるだけで、イランへの軍事支援は一切していない。すなわち、クレムリンは、「イランは自力で対処する以外にない」と判断し、傍観しているだけだ。イランの核関連施設が昨年6月、イスラエル軍に攻撃された時もそうだった。

ロシア・イランの関係は同盟国と言っても平時の時だけで、戦時になればそのパートナーシップが一枚の紙きれに過ぎないことが改めて明らかになったわけだ。ベネズエラへの米軍の軍事侵攻時でもそうだった。ロシアは南米ベネズエラとは軍事的な結びつきが強く、ベネズエラとは2025年5月に一種の包括的戦略パートナーシップ条約を批准し、米国の影響力を排除する「反覇権主義」の同志として結束を固めてきた。しかし、ベネズエラのマドッロ大統領が1月3日、米軍に拘束され、ニューヨークに移送された時、プーチン大統領は米国を批判するだけで軍事支援は一切していない。軍事大国ロシアへの信頼度は地に落ちたのだ。

米軍のベネズエラ侵攻、イラン戦争で最大の被害国は当事国以外では中国だろう。中国は約20%の原油輸入をイランに依存してきた。またベネズエラからも原油輸入してきたが、その2国から今後、原油輸入が難しくなってきたのだ。中国の王毅共産党政治局員兼外相は「容認できない」と非難。軍事行動の即時停止を訴え、イラン情勢でロシアと歩調を合わせる方針を確認している。

イラン戦争はウクライナ戦争にも影響を及ぼしてきている。ロシア側は原油価格の高騰で収入が増えるが、プラスだけではない。ロシアはイランから無人機やミサイルなどの武器を購入してきたが、イランのムッラー政権が崩壊すれば、難しくなるからだ。モスクワ側は既に国内で無人機製造を開始しているが、プーチン大統領にとってイランからの武器支援が途絶える事は痛いはずだ。

一方、ゼレンスキー大統領は、イランからのロシアへの武器支援が途絶える可能性を歓迎する一方、「領空防衛のために米国などから手に入れていたミサイルや兵器の調達が困難になる可能性がある。米国と中東の同盟国自身も、例えばパトリオット対空ミサイルなどを必要とするかもしれないからだ」と懸念している。ゼレンスキー大統領によると「昨年6月の米軍とイスラエル軍のイラン核関連施設への攻撃時、ウクライナへのミサイルの供給が遅れた」という。

ちなみに、イラン戦争は米国と欧州諸国との関係にも影響が出てきている。米軍は欧州基地の利用や領空通過許可などを得る必要があるが、英国とスペインはそれを拒否したため、トランプ大統領の逆鱗に触れている。

スターマー英首相はディエゴガルシア島軍事基地などの基地をイラン攻撃に使用することを米国から要請された時、国際法を理由で拒否したため、トランプ氏は「非常に失望」したという。最終的に、スターマー英首相は態度を軟化させ、ミサイル基地への攻撃に限定されたとはいえ、基地の使用を許可している。スペインのサンチェス政権の場合、北大西洋条約機構(NATO)加盟国スペインが米軍によるイラン攻撃に関連して基地使用を認めなかったことに不満を示し、トランプ氏は「スペインとは全ての貿易を打ち切る」と警告している、といった具合だ。

最高指導者を殺害されたイランは米国、イスラエルへの報復攻撃を行っている。いつまで報復戦闘が続くかは不明だ。プーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻する時、「数日でウクライナを占領できる」と豪語したが、プーチン氏の予測は見込み違いでウクライナ戦争は3月で5年目に入っている。そしてロシア側の方がウクライナ側より戦死者の数が多いといった状況だ。プーチン氏の予測は大誤算だったわけだ。

同じように、米・イスラエル両国軍のイラン攻撃が長期化する可能性も排除できない。ウクライナ側には祖国を守るという愛国心が軍事大国ロシアとの戦いで国民の強い支えとなった。イラン側も最高指導者を殺害されたことへの報復、怒り、そしてペルシャ民族としての尊厳が勝ち目のない相手への戦闘意欲を高めている面が否定できないからだ。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより

イランのムッラー政権が新しい精神的指導者を選出し、国民を結束することに成功した場合、彼らは必ず核兵器を製造しようとするだろう。すなわち、大量破壊兵器としてだけではなく、政権存続の保証としてだ。これはリビアのカダフィ政権からの教訓と呼ばれている内容だ。カダフィ政権が核開発計画を放棄したために崩壊したと受け取られているからだ。その教訓を忘れなかったのは極東アジアの独裁国家・北朝鮮だったわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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