問題児のレッテルを剥がしたのは"お坊さん"だった

Satoshi-K/iStock

「もう、どうしたらいいかわかりません」

目の前のKさんは、そう言って黙った。中1の息子Sくんのことだ。

忘れ物は日常茶飯事、成績は下から数えたほうが早い、宿題はやらない。学校に呼び出されるたび「家でなんとかしてください」と言われる。なんとかできるなら、とっくにしている。そんなこと、先生だってわかっているはずだ。

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ママ友の視線が痛い。誰にも相談できない。叱っても怒っても、何も変わらない。Kさんは完全に追い詰められていた。

——ただ、気になることがあった。

話を聞いていくと、Sくんは友だちに嫌なことを言ったことがないという。からかわれても、やり返さない。いつもどっしり構えていて、まわりから妙に信頼されている。中1で、だ。いや、中1だからこそ、というべきか。あの年頃の残酷さを知っている人なら、これがどれほど稀なことかわかるだろう。

「なんだか、お坊さんみたいな安定感がありますね、Sくん」

そう伝えた瞬間、Kさんの目に涙が浮かんだ。

「実は、私の亡くなった父がお寺のお坊さんだったんです」

鳥肌が立った。こういう偶然を、偶然と片付けていいのかどうか、正直わからない。ただ、ひとつ確かだったのは、Sくんの「良さ」が誰にも見えなくなっていたということだ。家でも学校でも「問題児」というレッテルを貼られ、何をしても否定される。評価されるのは成績とルールへの従順さだけ。そこからはみ出た子は、全部「問題」にされる。

Sくんが宿題をやらなかったのは、もしかしたら優しい彼なりの抵抗だったのかもしれない。誰も傷つけず、ただ「やりたくないことはやらない」。それが彼にできる精いっぱいだった。

Kさんはそこから変わった。子どもを「直す」のをやめて、「つながる」ことに集中した。ダメなところを指摘するのではなく、そこにいる彼をそのまま見る。言葉にすると簡単だが、追い詰められた親にとって、これほど難しいことはない。

数年後。あの勉強嫌いだったSくんが、一流企業に就職した。しかも別の一流企業からもスカウトされた。入社1年目で異例の抜擢人事。本人が一番行きたかった部署に配属された。

話ができすぎている、と思うだろうか。私もそう思う。でも、実際に起きたことだ。

さらに言えば、妹のMちゃんも変わった。同じく勉強嫌いだったのに、高3で学年1位。第1志望の大学に指定校推薦で合格した。Kさんご夫婦は「我が家からR大学に行く子が出るなんて!」と泣いて喜んだという。

大事なのは、一流企業に入ったとか、学年1位とか、そういう話ではない。親がまなざしを変えただけで、家族全体が動き出したということだ。「問題児」のレッテルの下に、ずっと「お坊さん」がいた。見えていなかっただけだ。

あなたのお子さんのレッテルの下には、何がいるだろうか。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)

 

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