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「もう、どうしたらいいかわかりません」
目の前のKさんは、そう言って黙った。中1の息子Sくんのことだ。
忘れ物は日常茶飯事、成績は下から数えたほうが早い、宿題はやらない。学校に呼び出されるたび「家でなんとかしてください」と言われる。なんとかできるなら、とっくにしている。そんなこと、先生だってわかっているはずだ。
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ママ友の視線が痛い。誰にも相談できない。叱っても怒っても、何も変わらない。Kさんは完全に追い詰められていた。
——ただ、気になることがあった。
話を聞いていくと、Sくんは友だちに嫌なことを言ったことがないという。からかわれても、やり返さない。いつもどっしり構えていて、まわりから妙に信頼されている。中1で、だ。いや、中1だからこそ、というべきか。あの年頃の残酷さを知っている人なら、これがどれほど稀なことかわかるだろう。
「なんだか、お坊さんみたいな安定感がありますね、Sくん」
そう伝えた瞬間、Kさんの目に涙が浮かんだ。
「実は、私の亡くなった父がお寺のお坊さんだったんです」
鳥肌が立った。こういう偶然を、偶然と片付けていいのかどうか、正直わからない。ただ、ひとつ確かだったのは、Sくんの「良さ」が誰にも見えなくなっていたということだ。家でも学校でも「問題児」というレッテルを貼られ、何をしても否定される。評価されるのは成績とルールへの従順さだけ。そこからはみ出た子は、全部「問題」にされる。
Sくんが宿題をやらなかったのは、もしかしたら優しい彼なりの抵抗だったのかもしれない。誰も傷つけず、ただ「やりたくないことはやらない」。それが彼にできる精いっぱいだった。
Kさんはそこから変わった。子どもを「直す」のをやめて、「つながる」ことに集中した。ダメなところを指摘するのではなく、そこにいる彼をそのまま見る。言葉にすると簡単だが、追い詰められた親にとって、これほど難しいことはない。
数年後。あの勉強嫌いだったSくんが、一流企業に就職した。しかも別の一流企業からもスカウトされた。入社1年目で異例の抜擢人事。本人が一番行きたかった部署に配属された。
話ができすぎている、と思うだろうか。私もそう思う。でも、実際に起きたことだ。
さらに言えば、妹のMちゃんも変わった。同じく勉強嫌いだったのに、高3で学年1位。第1志望の大学に指定校推薦で合格した。Kさんご夫婦は「我が家からR大学に行く子が出るなんて!」と泣いて喜んだという。
大事なのは、一流企業に入ったとか、学年1位とか、そういう話ではない。親がまなざしを変えただけで、家族全体が動き出したということだ。「問題児」のレッテルの下に、ずっと「お坊さん」がいた。見えていなかっただけだ。
あなたのお子さんのレッテルの下には、何がいるだろうか。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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