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日本の中小企業政策は、長らく一貫した前提に支配されてきた。「企業は存続すべきであり、潰れてはならない」という前提である。この発想のもと、補助金、税制優遇、金融支援、事業承継支援が積み重ねられてきた。しかし、その結果として何が起きたか。中小企業は守られたのではなく、固定化されたのである。
現在、日本の中小企業に決定的に欠けているのは、「再編される自由」だ。創業する自由、承継する自由は強調される一方で、統合される自由、分割される自由、解体される自由が、制度的にも心理的にも著しく制限されている。
再編とは、倒産の言い換えではない。本来の再編とは、事業・技術・人材を分解し、より適切な器へと再配置するプロセスである。しかし日本では、再編は「失敗」「敗北」と同義で語られ、忌避されてきた。その結果、非効率な企業構造が温存され、生産性も賃金も上がらない状態が続いている。
中小企業の現場では、再編を阻む具体的な障壁がいくつも存在する。
第一に、金融機関の姿勢である。融資回収を最優先するあまり、合併・分割・清算といった選択肢は後回しにされ、延命が選ばれる。第二に、税制・会計制度の硬直性だ。事業譲渡や会社分割に伴うコストは高く、再編は「割に合わない行為」として扱われる。第三に、社会的スティグマである。会社を畳むことは、いまだに経営者の敗北とみなされる。
この結果、本来なら再編によって価値を高められたはずの技術や人材が、非効率な器に閉じ込められ続ける。これは保護ではなく、機会の剥奪である。
再編される自由とは、「潰す自由」を称揚することではない。むしろ逆だ。価値を最大化するために、形を変える自由を認めることである。
複数の中小企業が統合されることで価格決定力を持つケースもある。
事業単位で切り出され、大企業や新興企業に吸収されることで、技術が生きる場合もある。個人として独立し、別の企業で力を発揮する人材もいるだろう。
政策が支援すべきなのは、存続か廃業かという二択ではない。再編という第三の道である。そのためには、以下の転換が必要だ。
第一に、再編・統合・解体を前提とした制度設計である。退出や分割を選んだ企業に対する税務・法務コストを下げ、円滑な再配置を可能にする。第二に、金融機関の評価軸の転換だ。延命ではなく、価値移転を支援した実績を評価する仕組みが求められる。第三に、社会的価値観の更新である。会社を畳む経営者を敗者ではなく、合理的な判断を下した主体として扱う必要がある。
中小企業は、日本経済の弱者ではない。硬直した制度の犠牲者である。再編される自由を奪われたままでは、生産性も賃金も上がらないのは当然だ。
守るべきなのは、企業の数ではない。価値の総量である。そのために必要なのは、存続を強制する政策ではなく、変わることを許す制度だ。中小企業に「再編される自由」を与えよ。それが、日本経済を次の段階へ進めるための、最低条件である。







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