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地方のローカル鉄道など、いわゆる「第三セクター」が経営難に陥る例は全国で繰り返されている。赤字の拡大、運休、路線廃止。こうしたニュースが出るたびに、その原因は「人口減少」や「地方の衰退」であると説明される。
しかし、全国のローカル鉄道を見ていると、人口だけでは説明できない現象がある。似たような人口規模の地域でも、比較的健全な経営をしている会社がある一方で、深刻な経営危機に陥る会社もあるからだ。
この違いを生むのは、人口ではなく「経営」である。
地方第三セクターの最大の特徴は、自治体が株主として関与していることである。形式上は株式会社であっても、実際の運営は行政の延長のようになりやすい。
ここに大きな問題がある。
第一に、経営者の選び方である。
多くの第三セクターでは、社長ポストが自治体出身者の「天下り」のような形で埋められることが少なくない。行政経験は豊富でも、実際に市場の中でお金を稼ぐ事業を運営した経験があるとは限らない。
企業経営とは、顧客を獲得し、価値を提供し、収益を上げる活動である。そのためにはマーケティング、価格戦略、コスト管理、投資判断といった経営スキルが必要になる。
しかし第三セクターでは、経営が「事業」ではなく「管理」になりやすい。つまり、どう収益を作るかよりも、どう赤字を埋めるかという発想が中心になってしまう。
第二に、ガバナンスの問題がある。
通常の民間企業であれば、経営が悪化すれば社長は交代する。株主や取締役会が経営責任を問うからだ。しかし第三セクターでは、株主である自治体が経営者を選ぶため、業績と人事が必ずしも連動しないことがある。
その結果、経営責任が曖昧になる。
第三に、人材の問題である。
地方のローカル鉄道が成長するためには、外部から専門人材を登用することが不可欠だ。マーケティング、観光戦略、設備保守、ITなど、鉄道経営にはさまざまな専門知識が必要になる。
しかし第三セクターでは、組織が閉鎖的になりやすく、外部の専門家が入りにくい場合がある。その結果、組織の中に必要な知識が不足していても、それを補う仕組みが働かない。
一方で、経営の質によって結果が大きく変わることを示す好例も存在する。
第三セクターのいすみ鉄道、そして同じく第三セクターのえちごトキめき鉄道の社長を務めた鳥塚亮氏は、外資系航空会社で培った合理性やマーケティングの視点を鉄道経営に持ち込んだ人物である。また、ご自身が経営する鉄道の前面展望映像DVDの制作・販売会社を通じて、鉄道ファンという市場の特性を深く理解していた。
その経験を生かし、閑古鳥が鳴いていた両社で観光列車やイベント列車などの施策を次々と実施し、鉄道ファンや観光客の需要を掘り起こした。「需要は与えられるものではなく、創造するものだ」という発想をローカル鉄道経営に持ち込んだのである。
現在、鳥塚氏は第三セクターではなく中小私鉄である大井川鐵道の社長として経営に携わっている。同社では災害によって不通となった区間の復旧という大きな課題を抱えているが、国鉄時代の客車列車を再現した人気列車の投入などにより観光需要を創出し、復旧資金を捻出する取り組みを進めている。
ここで注目すべきは、特別な魔法のような経営手法が使われているわけではないという点である。マーケティング、需要創造、顧客理解といった、民間企業ではごく当たり前の経営手法が実行されているに過ぎない。
問題は、こうした好例が存在するにもかかわらず、多くの地方鉄道会社がそれを学ぼうとしないことである。
企業経営の世界では、他社の成功事例を研究し、自社の経営に取り入れる「ベンチマーキング」という考え方が常識となっている。しかし中小鉄道会社の多くには、この発想がほとんど見られない。
他社が成功している施策を研究することもなく、顧客ニーズを分析することもなく、ただ「人口減少だから仕方がない」と結論づけてしまう。
しかし、それは経営ではない。
地方鉄道が苦境に立たされているのは事実である。しかし、その原因をすべて人口減少のせいにしてしまえば、経営努力の余地は最初から否定されてしまう。
地方第三セクターが直面している問題の本質は、人口減少ではない。
企業でありながら、企業として経営されていないことにある。
地方交通を守るために必要なのは補助金だけではない。
最も重要なのは、経営者の質なのである。







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