中東問題を論じるときに、アメリカかぶれの保守系論客や政治家に、「イスラエルは中東で唯一の民主国家である」だから自分たちの仲間だと言う人がいる。しかし、これはまったくおかしい。また、米国が自分たちの陣営だというサウジアラビアをはじめとするアラブ君主国は、世界でももっとも民主主義から遠い。

イスラエルを訪れたトランプ大統領と会談するネタニヤフ首相 2025年10月13日 同首相インスタグラムより
それに対してイランとか中国は、西欧的な民主主義国家ではないが、米国など外国勢力と癒着し腐敗した体制の悪政に対する民衆の怒りにささえられて生まれた体制だし、国民からもかなり強く支持されている。
少なくともイスラエルやサウジが欧米や日本の民主主義に近い国で、イランや中国の国民が圧政に苦しむ不幸な国であるなどというのはおかしい。このことを何回かにわけて論じたいが、今回は、『国家の興亡史からわかる現代地政学――西欧の衰退』(さくら舎)の内容を活用してイスラエルについて論じる。

イスラエルの問題は、もともとこの地に二千年も暮らしてきたパレスティナ人たちの土地に勝手に進出し、本来の住民を追い出したり、残留した人々を国民として認めず排除したり差別したりしている国家である。
ユダヤ人たちでカナンの地に戻りたいという人は常にいた。しかし、大きな運動になったのは、ドレイフュス事件をきっかけに起きたシオニズムがゆえである。
第一次世界大戦後、オスマン帝国領を分割した結果、パレスティナは英国の委任統治領となった。ユダヤ人は急増し、アラブ人不在地主から土地を買収して入植を進め、ユダヤ人比率は1881年に5%、1922年に11%、1935年に28%に達し、アラブ人は反発したが英国が弾圧した。逆に英国はユダヤ人移民抑制も試みたが失敗した。
第二次世界大戦後、過激派ユダヤ人組織は英国に対してもテロを行った。1946年、過激派組織イルグンによるキング・デービッド・ホテル爆破事件が代表例で、英国は這々の体で逃げ出した。
国連は1947年にパレスティナ分割案を承認し、ユダヤ人に国土の77%を割り当てた。イスラエルは1948年に独立を宣言し、第一次中東戦争に勝利した。建国以前からユダヤ人団体は農地の24%を買収してアラブ人小作人を追い出していたが、独立後は農地の大部分をパレスティナ人から奪った。
これにより、50万人がヨルダン川西岸(ヨルダン併合)とガザ地区(エジプト管理下)に移住し、さらに80万人が難民化した。残留した10万~18万人のパレスティナ人も差別と収奪に苦しんだ。この在留アラブ人は参政権をもっているが、2018年のイスラエル国家基本法ではイスラエルは「ユダヤ人の民族国家」とされ、公然たる人種差別である。

イスラエル(緑=パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸及びガザ地区))外務省HPより
さらに、第三次中東戦争でイスラエルがガザ地区とヨルダン川西岸全域を違法に掌握した。1967年以降、ヨルダン川西岸とガザ地区ではユダヤ人はイスラエル市民だが、数百万人のパレスチナ人はイスラエル政府の支配を受けながらイスラエルの選挙権を持たない状態である。
この状況はオスロ合意によればパレスティナ国家の樹立によって解決すべきものだが、ネタニヤフ政権(2022~、極右・宗教右派連立)はパレスティナ国家を認めず、西岸の約30%(ヨルダン渓谷+主要入植地)の恒久支配を主張している。併合派(宗教右派)にはパレスティナ全域の併合や「パレスティナ人はヨルダンへ移住すべき」など極端な案も存在する。
しかし併合して参政権を与えればアラブ系住民が多数派になる可能性が高い(イスラエル人口990万、アラブ系21%/西岸380万の81%アラブ/ガザ238万はほぼ全員アラブ)。そのため併合派は市民権の条件付き付与や段階的市民化、「国家」にもしない、「市民権」も与えないなどの案を提示しているが、イスラエル国内アラブ人には参政権があるため不整合が生じている。
私はイスラエルが二国家制度が嫌なら、イスラエルは人種平等の国家として法的に整備し、将来はユダヤ人は南アフリカのボーア人のように少数民族として暮らしてもよいと提案するのが論理的だと思う。
いずれにせよ、ユダヤ人同士のあいだでは人種平等と民主主義であっても、本来の住民の排除とか差別とかのうえに立った国家を民主主義国家とよぶべきではあるまい。
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【目次】
第1章 文明の源流と民族奥亡が紡いだ古代ユーラシアの大地図
第2章 大航海、新帝国、革命が形づくった近代ユーラシアの再構築
第3章 ユダヤ・イスラーム・ギリシアの世界が形づくった中東の文明圏
第4章 ロシアとウクライナを形づくった千年の興亡史
第5章 インド文明を形づくった大地・民族・宗教の多層史
第6章 王朝・民族・地政学で読み解く東アジア世界の歴史構造
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