黒坂岳央です。
「護衛艦の派遣には反対だ」
「戦争に巻き込まれる」
トランプ政権がホルムズ海峡への艦船派遣を同盟国に求めると、日本国内からはこうした反射的な反対論が湧き出た。しかしこの反対論の大半は、感情に根ざしており、肝心のコストの計算が抜けていると感じる。
「とにかく派遣するな!」と叫ぶ人たちは「派遣しなかった場合に何が起きるか」を何も言わない。これは問題だと感じ、筆をとることにした。

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「派遣する、しない」の究極の二択
護衛艦の派遣については、「派遣すれば問題が解決する」という事態は単純ではない。
日本の護衛艦1〜2隻がホルムズに展開したところで、軍事的な抑止力としてのインパクトは限定的だ。派遣によって局所的なリスクが新たに生まれることも否定できない。
だからこそ、上述の通り、SNSでは「派遣しなければ安全が維持される。戦争に関わるな」という意見が出ているわけだ。しかし、派遣しなければ大丈夫、というわけにはいかない。派遣する、しない場合のリスクは根本的に性質が異なる。すなわち、エネルギー安全保障の崩壊と、日米同盟の形骸化という構造的なリスクだ。
日本のエネルギー自給率は極めて低く、輸入原油の約8割がホルムズ海峡を通過する。この海峡の安全は現実には米海軍が維持しており、日本はその恩恵をただで享受してきた。これを「平和主義」と呼ぶのは正確ではない。「安全保障のタダ乗り」である。見方を変えれば「すでに用心棒代は払っているので当然の権利」という意見もありそうだが、とにかく自国でカバーしている状態ではないわけだ。
そのタダ乗りが今、精算を求められている局面である。筆者は、派遣しない選択肢は構造的リスクの方が大きな打撃になると見ている。理由は日米同盟の亀裂が持つ波及効果の深刻さにある。
日本の安全保障は米国との同盟を前提に設計されており、その信頼が損なわれた場合、防衛費・外交・経済安全保障のすべてに連鎖する。同盟の形骸化は一度起きれば短期間では修復できない。局所的なリスクとは次元が異なる問題になる。だから安易に「とにかく派遣するな」とは言い難いのだ。
「派遣する、しない」の究極の二択だ。どちらを選んでもそれぞれの痛みを必ず受ける。派遣しなかった場合のコストまで考慮した上で判断する必要があるだろう。
我々が「やってはいけないこと」
安全保障の判断は政治家が行う。我々が外交でできることは少ない。しかし報道が過熱すると、一般市民が誤った行動を取り始める。少なくともパニックを起こしたり、それを招く言動は慎むべきだろう。過去の歴史を見れば明らかだ。今回やってはいけないことは二つある。
まずはトイレットペーパーの買い占めは良くない。すでにドラッグストアやスーパーでは「買い置きはお控えください」と注意書きが出ているところもあるようである。
トイレットペーパーの原料は木材パルプであり、石油とは無関係である。2020年のコロナ禍でも根拠のないデマで棚が空になった。人類は歴史に学ぶべきだが、その歴史を見るとなかなか歴史に学べない事実がある。だからあえていおう。今、歴史の同じ過ちを繰り返す必要はない。
また、過去記事で書いたが駆け込み給油も経済的合理性がない。個人が少量のガソリンを早めに入れたところで節約できる金額は数百円に過ぎず、それが集団行動になれば却って混乱と価格上昇を招く。そうなれば本来、駆け込み給油をする気がない人も無駄に巻き込まれる。これはやるべきではない。
そして情報の取り方も重要だ。センセーショナルな見出しに反応して行動を変えたり、デマに踊らされてフェイクニュースを拡散したり、またはインプレッション稼ぎで意識的にデマを拡散する行為は社会に混乱を与える。
何でも衝動的に反応するのではなく、まずは冷静に一次情報に当たる習慣を持つことが、こうした局面では最大の自衛手段になるはずだ。
我々はどうすべきか
結局、我々はどうしたらいいだろうか?一般市民には外交を直接動かす手段はない。護衛艦の派遣を決めるのも、イランと交渉するのも、政治家と外交官の仕事だ。
だとすれば個人ができる最も合理的な行動は、パニックにならず、むやみに不安を煽らず、冷静に生活を続けることである。これは消極的な態度ではない。集団的パニックが経済的損害を増幅させる構造を理解した上での、積極的な合理的選択だ。
◇
ホルムズ海峡の緊張は遠い外交問題ではない。単に車が乗れない、というだけでなく食糧問題にも直結する甚大な打撃になり得る。だからこそ、感情ではなく常にロジカルに、問題の構造を考える習慣が問われているだろう。
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コメント
> 日本のエネルギー自給率は極めて低く、輸入原油の約8割がホルムズ海峡を通過する。この海峡の安全は現実には米海軍が維持しており、日本はその恩恵をただで享受してきた。これを「平和主義」と呼ぶのは正確ではない。「安全保障のタダ乗り」である。見方を変えれば「すでに用心棒代は払っているので当然の権利」という意見もありそうだが、とにかく自国でカバーしている状態ではないわけだ。
この問題を議論する際には、二つのポイントに配慮する必要があります。第一は、憲法上の問題であり、紛争地域への自衛隊の派遣が許されるか否かです。私の解釈では、これは許されない。そしてこの憲法を我が国に押し付けたのは米国自身であり、このことに関してトランプ氏が文句をいう筋合いはない、ということなのですね。
第二に、我が国が輸入する原油の8割がホルムズ海峡を通過していることは確かです。だけど、ホルムズ海峡封鎖リスクは以前から認識されており、ホルムズ海峡を通過しない代替手段もすでに確保されております。つまり、一部の油田からは、ホルムズ海峡を通らずともたどり着ける港までパイプラインが敷設されている。平時はあまり使っていないのですが、ホルムズ海峡通過が困難となった今、この代替手段を使わない手はありません。
我が国が輸入する原油の44%を占めるUAEからは「ハブシャン-フジャイラ・パイプライン」により、ホルムズ海峡の外側、オマーン湾に面したフジャイラ港から、日本のUAEからの輸入量にほぼ匹敵する日量100万バーレルの原油を輸出することが可能です。もちろんこの全てを日本向けとすることは難しいでしょうが、一部でも入れていただければ、備蓄原油の枯渇時期を先延ばしすることができます。
我が国が輸入する原油の40%を占めるサウジアラビアからは、東部油田地帯の原油を紅海に面したヤンプー港まで輸送するパイプラインがあり、サウジの原油生産量1200万バレル/日の半分強である700万バレル/日が出荷可能です。ただし、サウジの国内消費分もあり、輸出はそのうちの500万バレル/日程度と言われております。我が国のサウジアラビアからの原油輸入は、日量100万バレル弱ですから、全量ヤンプー港から輸入することもできそうです。
これら二つの港は、ホルムズ海峡を通過する必要はないのですが、まったく安全というわけではありません。フジャイラにはイランのドローン攻撃が何度かあり、その都度操業を停止しています。紅海にはフーシ派の海賊が出没しております。これらに対してタンカーの安全を守るためには、護衛艦の派遣が必要でしょう。日本船舶の護衛であれば、自衛艦の派遣に憲法上の問題も生じないはずです。これで実質、十分な原油が確保されれば、さしあたり日本の問題はクリヤーされます。
ホルムズ海峡に関する日本の国際的貢献としては、交戦状態が終焉したのちに、ホルムズ海峡の機雷掃海などで貢献する道を検討すればよいのではないでしょうか。平和憲法制定が米国の意思が強く影響していたことをトランプ氏に思い出させれば、そうそう無茶も言わないのではないか、私には、そんな気がいたします。
ここは、高市氏とトランプ氏の良好な関係を生かし、双方に良い結果をもたらす道を探るのがよいでしょう。そして、イラン、UAE、サウジアラビアにも、きっちり話を通して、我が国にとって都合の良い形に事態を持っていくこと、これこそが政治指導者に期待される役割というものです。
高市氏ならきっとやってくれる。日本の国民といたしましては、そのように期待して、事態を見守るのが宜しいのではないでしょうか。