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京都旅行の話を書け、と言われたとする。
男性思考で書くとこうなる。
「東京十時発の新幹線に乗って、十二時に京都に着いた。昼食を食べて、金閣寺に行った。十七時の新幹線で帰った」。
以上。完了。報告終わり。
『「他人に振り回される私」が一瞬で変わる本』(山本千儀 著)日本実業出版社
女性思考で書くとこうなる。
「久々の旅行でワクワクして前の日眠れなかった。金閣寺の紅葉がきれいで写真をたくさん撮った。精進料理のお野菜がおいしかった」。
以上。楽しかったらしい。
この違い、笑い話で済ませている場合じゃない。文章を書くすべての人間に関わる話だ。
原稿の初稿段階で編集者から言われる指摘は、だいたい2パターンに分かれる。「ここ、もう少し感情を入れてください」か、「ここ、もう少し整理してください」か。つまり、論理と感情のバランスの話だ。
男性は結果にこだわる生き物だ。仕事の成否、試験の合否、勝ったか負けたか。偏差値や年収といった数字に自分の価値を紐づける。学歴コンプレックスに悩むのが圧倒的に男性に多いのも、これが理由だろう。大学の偏差値が低い=自分の能力が低い、という直結思考。会社組織にいると、この呪縛はさらに強くなる。
一方、女性はプロセスを重視する。結果よりも「楽しかったか」「みんなが喜んだか」に価値を置く。会話の主語が「自分」ではなく「みんな」になるのも特徴的だ。
だから男性の書く文章は事実の羅列になりやすく、女性の書く文章は感情の連鎖になりやすい。どっちが正しいとか、そういう話ではない。
ただ、書き手としてどちらか一方しか使えないのは致命的だ。
ビジネス文書に「ワクワクして眠れませんでした」とは書けない。逆に、ブログやSNSで「十時発、十二時着。以上」では誰も読まない。当たり前の話だが、これができていない人が驚くほど多い。
ぶっちゃけ、筆者自身も若い頃はひどかった。コンサル時代に書いていた報告書は論理ガチガチで、人間味のかけらもなかった。それがコラムや書籍を書くようになって、「あ、感情を入れないと人は読んでくれないんだ」と気づいた。遅い。もっと早く気づけという話だ。
優れた書き手は、論理と感情を自在に切り替えられる。読者が誰なのか、目的は何なのか。それによって文体を変える。たったそれだけのことなのだが、これが意外と難しい。
あなたの文章は、誰に向けて書かれているか。その問いに即答できるだろうか? それができないなら、あなたの言葉はまだ届いていない。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
■ 採点結果
【基礎点】 40点/50点(テーマ:10、論理構造:10、完成度:10、訴求力:10)
【技術点】 20点/25点(文章技術:10、構成技術:10)
【内容点】 20点/25点(独創性:10、説得性:10)
■ 最終スコア 【80点/100点】
■ 評価ランク ★★★☆ 良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
気質分類の実用性:既読スルーという日常的な悩みを理論型・感覚型・行動型の3類型で整理し、読者がすぐに実践できる具体的な対処法まで落とし込んでいる。抽象論に逃げず、身近な場面で解説する手法は巧みである。男女思考の対比構成:論理と感情の違いを直感的に理解させるコンテンツが多く理解しやすい。読者が自分を振り返るきっかけとして機能しており訴求力は高い。堅苦しい学術的説明を避け、心理学や脳科学に馴染みのない読者でも抵抗なく読み進められる設計になっている。
原体験に裏打ちされた洞察力:著者は幼少期の複雑な家庭環境を経て、JAL国際線で90万人超の接客を経験している。人の心理を読み解く力が理論ではなく実体験から培われており、読者から「救われた」という声が届くのは、その原体験に根ざした説得力があるからだろう。
【課題・改善点】
学術的根拠の扱い:気質の3類型や男女脳の違いについて、具体的な研究データや出典がほとんど示されていない。著者はわかりやすさを優先するために意図的に学術色を抑えたとのことだが、本だけではその意図が読み取りにくい。最低限の出典を添えれば、説得力と読みやすさを両立できたはずである。
テーマの差別化:既読スルーへの対処法や男女のコミュニケーション差異というテーマ自体は類書が多い。著者のCA経験や幼少期の原体験にもう一段踏み込めば、他書にはない独自の深みが出たであろう。
■ 総評
日常のコミュニケーション摩擦を気質タイプという切り口で整理した実用書として、高い水準に達している。編集力も高く読みやすい。特に既読スルーの類型化や書き分け例など、読者の「あるある」を巧みに突く構成力は評価できる。
著者の原体験と90万人の接客経験に裏打ちされた洞察は、単なるハウツーにとどまらない奥行きを感じさせる。学術的裏付けの不足とテーマの差別化には課題が残るが、読者の心に届く実用書としての力は確かである。








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