日本の大企業で長く続いてきた退職金制度が転換点を迎えている。王子ホールディングスが退職一時金の廃止を決めたことで、終身雇用と結びついた「後払い賃金型」の雇用制度が揺らぎ始めた。採用競争の激化や若年層の意識変化、転職の一般化などを背景に、日本型雇用の構造そのものが変わりつつある。
そもそも給料の一部を(自己都合で辞めたら減額等の縛り付きで)会社に預けたまま数十年も滅私奉公するというスタイルに無理があると思う。40歳過ぎて島流しみたいな扱いになっても辞められず世捨て人みたいになってる知り合い何人もいるよ。 https://t.co/G9UkdZFqgD
— jo shigeyuki (@joshigeyuki) March 17, 2026
- 王子ホールディングスは2026年春入社以降の社員を対象に退職一時金制度を廃止する方針を決めた。退職金の原資を基本給に上乗せする形に変更し、初任給は前年比約1割増の27万2000円〜28万円となる見込みである。
- 既存社員の制度は維持されるが、新制度は新卒・中途を含む今後の入社者が対象となる。現在の退職給付制度は退職一時金と企業年金が50%ずつの構成だが、新制度では月給重視の報酬体系に変わる。
- 大企業で退職一時金を廃止する例は極めて珍しい。厚生労働省の調査では、2020〜22年に退職一時金制度を廃止した企業は0.1%に過ぎず、従業員1000人以上の企業では事例が確認されていない。
- 制度変更の背景には人材獲得競争の激化がある。王子HDが求める機械・電気系人材は半導体業界などとの争奪戦となり、2025年春のプラントエンジニア採用は目標の7割にとどまった。
- 一方で中途採用は急増している。同社では2021年度に約1割だった中途採用比率が2025年度には約5割に達した。勤続年数が長いほど退職金が増える仕組みは、新卒終身雇用を前提とした制度であり、中途採用中心の人材戦略と整合しなくなっていた。
- 退職金制度は長年、従業員を長期雇用に結びつける装置として機能してきた。大卒総合職のモデル退職金は勤続30年で2000万円超とされ、企業への長期在籍を促す仕組みになっていた。
- しかし若年層の価値観は変化している。マイナビの調査では企業選択で「給料の良い会社」を重視する学生は25%と過去最高となった。物価高や将来不安から、将来の退職金より現在の給与を重視する傾向が強まっている。
- 資産形成制度の普及も影響している。NISA拡充や老後資金問題の議論により、投資の元手となる月給を重視する若者が増えている。調査では20〜30代の約3割が退職金の月給化に肯定的と回答した。
- 転職の一般化も雇用制度の見直しを後押ししている。若い時期に低賃金で働き、後半で回収する「後払い賃金」の仕組みは転職市場では不利になりやすく、企業選択に影響していると指摘されている。
- 一方で日本企業では早期退職の動きも広がっている。2025年に早期退職を実施した上場企業は43社、対象者は約1万7800人に達し、その約7割は黒字企業だった。
- AIやデジタル化の進展で企業の人員構成も変化すると見られており、賃金が高い中高年層がリストラ対象になりやすいという指摘もある。
今回の王子HDの制度変更は、退職金という日本型雇用の象徴的な仕組みにメスを入れる動きとして注目される。終身雇用と年功的報酬に支えられてきた雇用モデルは、転職の一般化や人材競争の激化、資産形成意識の変化によって大きく揺らいでいる。日本企業の雇用制度は、後払い型から「今の給与を重視する仕組み」へと徐々に転換しつつある。








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