黒坂岳央です。
「日本はお金で買えるものが少ない」
日本に住んだ中国人のこの言葉が、SNSで大きな反響を呼んでいる。
日本に長く住んだ中国人が離れる理由として、空気を読むストレス、お金が思ったほど自由に使えないこと、税金の高さなどが列挙され、「やっぱり日本は住みにくい」という共感の声が広がった。
昨今、SNSでは何でも「日本はだめだ、海外は素晴らしい」という論調だが、極端な二元論を排して「お金で買えない」を考察したい。

takasuu/iStock
お金で便利を買いづらい日本
外国人が抱く不満の内、「確かに」と頷けるものもある。それが「お金による利便性の購入」が過剰に否定される点だ。
テーマパークのエクスプレスパスに対して「差別だ」と怒る人が今もいる。高級サービスや富裕層向けの優遇を「下品だ」「差別だ」と叱る文化があることを否定するのは難しい。
だが冷静に考えれば、お金を払って行列を回避することは、他の誰かの権利を侵害しているわけではない。追加料金を払ったサービス提供者と利用者の間の、完全に合理的な取引だ。
日本社会には「お金を持っていることを表に出すな」「庶民と同じ列に並べ」という無言の圧力がある。この点については外国人の「サービスを買いにくい」という感覚は理解できる。
お金で時間や快適さを買う自由を過剰に制限することは、個人の合理的選択への干渉であり、ここは改善の余地がある批判として受け止めるべきだろう。
ルールを金で買う社会になってはいけない
一方で、外国人が言う「賄賂・コネによる行政手続きの加速・他者を出し抜く行列スキップが買えない」という不満についてはどうだろうか。これらは「便利さ」ではなく、「人治社会化」といえる。
ルールが金で曲がる社会では、弱者は常に後回しにされることになる。安全や公正といった基本的な保護すら「金次第」になる。中国をはじめ多くの国で「お金でなんとかなる」のが常識だが、それは法治・平等原則が形骸化した状態に他ならないし、日本は絶対にそうなるべきではない。
日本の最大の強みは民度であり、性善説で成立している信用経済だ。約束は守られ、サービスは均質で、金を積んでも不正はできない。この土台があるからこそ、商取引が成立し、社会全体のコストが下がる。
賄賂文化を「便利」と羨む視点は、この土台を破壊することになる。だから他国からなんと言われようともこの点は受け入れるべきではないだろう。
日本移住者の大半は大人しく生活している
SNS上では「外国人が増えるとマナーや治安が破壊される」という意見をよく見るが、解像度を上げると異なる風景が見えてくる。
筆者の新居の近隣には、中国人の医師や経営者、欧州各国からの移住者など多くの外国人が暮らしている。子供の学校にも外国人の子はどのクラスにもいる。
彼らの家を訪ねると本棚にはJLPT(日本語能力試験)のテキストが置かれ、地域のゴミ拾いにも参加し、コミュニティのルールを守って静かに生活している。
地域活動に消極的な日本人住民に対して「コミュニティをみんなで良くしよう」と声をかけ、率先してゴミ拾いをする外国人もいる。「郷に入っては郷に従え」を体現しているのが実態だ。
もちろん、これは筆者の周辺という局所的な一次情報であり、社会経済的地位の高い層に偏っているという指摘はあるだろう。この光景だけを切り取って「日本中の外国人が全員マナーが良い」と一般化するつもりはない。
だが重要なのは、この個人的な体験が、マクロな統計データによる結論と概ね、符合しているという事実だ。
警察庁の犯罪統計などを分析し、犯罪の主体となりやすい「若年男性」の割合など、年齢・性別構成を日本人と同じ条件に補正して比較した場合、両者の犯罪率に有意な差は認められない。「外国人だから犯罪を犯しやすい、ルールを破りやすい」は、少なくともこの統計からは導き出せないのである。
つまり、SNSで拡散されるような「日本のルールを破壊する外国人」は目立つゆえに過大評価されているだけであり、筆者の近隣で見られるような「日本文化をリスペクトし、適応して暮らす外国人」こそが、マジョリティなのだ。
声の大きな少数派が起こすトラブルに引きずられ、データが示す実態と、そこで暮らす多数派の姿を見誤るべきではない。
◇
「外国人が不満を言っているから日本を変えるべきだ」という論法には乗る必要がない。日本は日本文化をリスペクトできる人が住む場所であり、それは他国でも全く同じはずだ。フランスに移住してフランス文化を「不便だ」と公言し続ける人間を、フランス人が歓迎しないのと同じ構造だ。
合わない人に出ていけと言いたいわけではない。ただ、日本社会の土台を壊してまで外部からの批判に適応する必要はないという話だ。
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