共同親権への法改正で何が変わる? 期待されること、懸念されること

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今年4月1日から、日本の離婚をめぐるルールが大きく変わる。改正民法の施行により、離婚後も父母の双方が子の親権を持てる「共同親権」が新たな選択肢として加わるのだ。

「自分には関係ない話」と思う人もいるかもしれないが、現在離婚を考えている人、すでに単独親権で離婚している人、そしてこれから子どもを持つ可能性のあるすべての人に関わりうる制度改正だ。本記事では、改正の概要から期待される効果、さらには専門家が指摘する懸念点まで、わかりやすく整理する。

そもそも「親権」って何?

親権とは、未成年の子どもを育てるうえでの権限と義務の総称だ。具体的には、子どもの居住地や教育方針を決める「身上監護権」と、子どもの財産を管理する「財産管理権」の2つからなる。進学先の決定、医療行為への同意、パスポートの取得申請なども、すべて親権者の権限に含まれる。

これまでの日本では、婚姻中の父母は共同で親権を持つが、離婚後は必ずどちらか一方のみが親権者となる「単独親権」に移行しなければならなかった。親権を失った親は、法律上、子どもの重要な事項を決める権限を持たず、「会いたくても会えない」「子育てに関与できない」という声は多くの当事者から上がってきた。

今回の法改正で何が変わる?

① 「共同親権」という選択肢が加わる

改正民法では、離婚後の親権について「単独親権」か「共同親権」かを父母が協議して選べるようになる(選択的共同親権制)。共同親権が義務化されるわけではなく、あくまでも選択肢が増えるかたちだ。協議が整わない場合は家庭裁判所が父母・子の関係性などを考慮したうえで判断する。

② 親権行使のルールが明確化される

共同親権を選択した場合、進学・転居・医療など、子にとって重要な事項は原則として父母の合意が必要になる。一方で、食事や日常的なしつけといった「監護・教育に関する日常の行為」や、子の生命・身体に関わる「急迫の事情」がある場合は、一方の親だけで親権を行使できる。

また、特定の事項について父母の意見が対立する場合は、家庭裁判所が親権の行使者を定める手続きも新設された。

③ 「法定養育費」制度が新設される

養育費の不払い問題に対応するため、父母間で養育費の取り決めがない場合でも、離婚の日から一定額(子ども1人当たり月額2万円)の支払いを義務付ける「法定養育費」制度が同日付で導入される。

さらに、養育費債権には他の借金より優先して弁済を受けられる「先取特権」が付与され、書面による取り決めがあれば裁判を経ずに給与の差押えの申立てができるなど、回収手続きも大幅に簡素化される。

④ 既存の単独親権ケースへの対応

施行前にすでに離婚して単独親権となっているケースも、施行後に家庭裁判所へ親権者変更の申立てを行えば、共同親権への移行が認められる可能性がある。ただし、自動的に共同親権に変わるわけではない。また、虐待やDVのおそれがある場合や、父母が共同して親権を行うことが困難と認められる場合は、変更は認められない。

期待されること(メリット)

子どもの成長環境が安定する

離婚後も父母の双方が育児に関わり続けることで、子どもが「両親に愛されている」という安心感を持ちやすくなる。進学や医療といった重要な局面で2人の親が関与できることは、子どもの利益に直結する。

別居親との絆が維持される

これまでの単独親権制度のもとでは、親権を失った親が子育てに関与する法的な手段は限られていた。共同親権により、離婚後も父母双方が子の人生に継続して関与できる仕組みが整う。

養育費の確保がしやすくなる

法定養育費の創設と先取特権の付与により、養育費の不払い問題への対策が強化される。厚生労働省の調査では養育費を受け取っていないひとり親家庭が多数存在することが示されており、制度的な担保ができたことの意義は大きい。

実子誘拐の歯止めになりうる

現行の単独親権制度のもとでは、離婚前に一方の親が子を連れて家を出てしまうと「継続性の原則」により同居親が親権を得やすい構造があり、「先に連れ去った方が有利」という問題が指摘されてきた。共同親権の導入により、もう一方の親の同意なく子を連れ去る行為に対する法的な抑止力が生まれる可能性がある。

また、日本のこれまでの単独親権制をめぐっては、米国務省や欧州議会が繰り返し対日批判を行ってきた経緯がある。共同親権の整備は外交的な観点からも意義を持つという見方がある。

国際的な潮流への対応

法務省の調査によれば、G20を含む24か国のうち、インドとトルコを除くほとんどの国で単独親権と共同親権の両方が認められている。今回の改正により、日本も国際的な標準に近づくことになる。

懸念されること(課題・リスク)

DV・虐待被害者が危険にさらされるリスク

最も深刻な懸念として挙げられるのが、DV(家庭内暴力)や虐待の被害者への影響だ。法律上は、DVや虐待のおそれがある場合には家庭裁判所が単独親権と判断する建前になっている。しかし、被害者が証拠を集めにくい、相手を恐れて主張できないといった現実があり、制度の網の目から被害者がこぼれ落ちる可能性が指摘されている。

対立が続く父母間では子への影響が出るおそれ

関係性が壊れて離婚に至った夫婦が、共同親権のもとで重要事項について合意し続けることは容易ではない。進学先の選択や転居の判断など、時間的に急を要する場面で父母の意見が衝突した場合、子どもの日常生活に実害が及ぶ可能性がある。

「事実上の強制」が生じるリスク

共同親権はあくまで「選択制」だが、力関係に差がある元夫婦の場合、一方が不本意ながら共同親権に合意させられるケースが想定される。DVなどで対等な立場での協議が難しいにもかかわらず、やむを得ず共同親権で協議離婚するケースが生じることへの懸念は、離婚案件を多く扱う弁護士の間でも大きい。

運用の不透明さ

今回の法改正は大きな制度転換であるにもかかわらず、実際の裁判所での運用がどうなるかは未知数だ。「急迫の事情」「日常の行為」といった概念の具体的な範囲は、今後の判例の積み重ねによって形成される部分が多く、当面は現場での判断にばらつきが出ることが予想される。

どんな人が今すぐ動くべき?

これから離婚を考えている人へ

共同親権・単独親権のどちらが子どもにとって最善かを、感情ではなく子の状況をもとに検討しよう。特にDVや虐待がある場合は、必ず弁護士に相談したうえで手続きを進めることを強く勧める。

すでに単独親権で離婚している人へ

施行後(2026年4月1日以降)、家庭裁判所に申立てることで共同親権への変更を求めることが可能になる。ただし自動的に変更されるわけではなく、「子の利益」の観点から裁判所が判断する。まずは弁護士に自分のケースが変更に適しているか相談してみよう。

まとめ:「子どもの利益」を中心に置いて考える

今回の法改正の根底にある理念は、「離婚後も父母双方が子の養育に責任を持つことが子どもの利益につながる」という考え方だ。共同親権には、別居親と子どもの絆を守り、養育費問題を解消し、子の成長環境を安定させる可能性がある一方で、DV被害者の保護や、対立する父母間での意思決定の困難といった深刻なリスクも孕んでいる。

制度の運用はこれから積み上げられていく段階にあり、全容が明らかになるのはもう少し先になるだろう。重要なのは、どちらの選択であれ「子どもにとって何が最善か」を判断の軸に据えることだ。

その軸をぶらすことなく、今後数年をかけて制度運用の改善・修正を重ねていくことが求められている。

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