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3月の日経新聞「私の履歴書」は元厚生労働次官の村木厚子氏だった。拙著「国破れて著作権法あり 誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」(以下、「国破れて著作権法ああり」)第5章「金子勇の悲劇を繰り返さないための提言」の「5-3 提言3:取調べに弁護士の立会いを義務付ける」で村木氏の証言を紹介したため、毎朝読むのが楽しみだった。

村木厚子厚生労働事務次官(2013年)
Wikipediaより
村木氏の郵便不正事件(以下、「村木事件」)は冤罪事件、つまり、「やってないのに罪にされた」事件だが、Winny事件は「やったことが罪かどうかで争われた」事件である。
しかし、共通するのは検察の「ストーリー先行」。先に「こういう犯罪があったはずだ」というストーリーを作り、それに証拠や解釈を合わせにいったという構図である。
ストーリーに沿った証拠を作成するため、Winny事件の金子氏は検察の作文した虚偽の自白に署名させられた。
村木氏もストーリーに沿った事実と異なる供述の訂正を何度申し入れても受け入れてもらえず、根負けしてサインしてしまった。村木氏が事件にかかわったとする供述調書にサインした当時の上司や部下も、裁判で検事の作文だったと証言している。
「日本の刑事司法は中世」との国連の指摘
こうした検察の対応で思い出されるのが、国連拷問禁止委員会での「日本の刑事司法は中世」との指摘。「国破れて著作権法あり」の第3章(3-6 「日本の刑事司法は中世」との国連の指摘)では、日弁連の代表団の一員として、委員会を傍聴した「小池振一郎の弁護士のブログ」(2013年5月29日)から抜粋して紹介したが、ここでは、それを筆者なりに要約する。
2013年、国連拷問禁止委員会で、日本の刑事司法制度に対し強い批判が出た。モーリシャスの委員は、弁護人の立会いがない取調べや自白偏重などを問題視し、「中世のようだ」と指摘した。背景には、日本政府がこうした問題に対して十分に説明せず、不誠実な対応に終始したことがあり、委員の不満が高まっていた。
これに対し、日本側の上田秀明大使は、日本の制度は「最も先進的」と反論し、会場で感情的に「黙れ」と発言するなど異例の対応を見せた。最終的に委員会は日本に対し、取調べ時間の規制、弁護人の立会い導入を勧告した。
村木氏は、日本弁護士連合会「弁護人の援助を受ける権利の確立を求める宣言-取調べへの立会いが刑事司法を変える」で次のように主張する。
弁護人の立会いについてでございますが、私も取調べを20日間受けて、これは、取調べというのは、リングにアマチュアのボクサーとプロのボクサーが上がって試合をする、レフェリーもいないしセコンドも付いていないというふうな思いがいたしました。
いろいろな改革の方法はあるでしょうけれども、せめてセコンドが付いていただけるというだけでも、ずいぶんまともな形になるのではないかというふうに思いますので、弁護人の立会いは大変重要だと思います。
特捜部による証拠改ざんという前代未聞の検察の不祥事が発覚した村木事件の反省から、設けられた「検察のあり方検討会議」の提言や「法制審議会」の答申を受けて、2016年に刑事訴訟法が大改正された。
この改正で対象事件が裁判員裁判事件と検察独自捜査事件に限られるとはいえ、取調べ全課程の録音・録画が義務づけられた。しかし、法制審議会で「将来的課題」として先送りされた「弁護人の立会い」については未だに実現していない。
ゴーン夫妻の「人質司法」批判
こうした中、日本の刑事司法が国際的批判を浴びる事件が再発した。元日産自動車会長の元日産自動車会長カルロス・ゴーン被告の勾留時の人質司法批判である。保釈後の逃亡事件を受けた海外の論調は、ゴーン被告の逃亡よりも日本の刑事司法に対する批判の方が多いぐらいだった。
2020年1月9日付BUSINESS INSIDER誌の「ゴーン会見、海外では報道に続々と『いいね!』情報戦に勝ったのは誰か」と題する記事は、1月8日にレバノンで行われたゴーン氏の記者会見模様を報じた。「国破れて著作権法あり」の第3章(3-7 ゴーン夫妻の「人質司法」批判)で紹介した記事を以下筆者なりに要約する。
カルロス・ゴーン被告は会見で4カ国語を使いこなし、即答で記者の質問に応じる姿が世界中で報じられた。その無実主張は大きな注目を集め、日本の司法制度や企業統治の問題点が国際的に批判の的となった。欧米メディアは特に、
①逮捕は日産幹部と検察による陰謀だという主張、
②自分は正義を逃れたのではなく不正義と政治的迫害から逃れたという訴え、③拘束中の孤立や人権的苦痛の訴え、
に注目して報じた。
ゴーン夫人も応援した。以下、2019年1月17日付ITmedia ビジネスオンライン「ゴーン妻の“人質司法”批判を『ざまあみろ』と笑っていられない理由」を、これも「国破れて著作権法あり」の第3章(3-7 ゴーン夫妻の「人質司法」批判)で紹介した記事を筆者なりに要約する。
ゴーンの長期勾留を受け、妻キャロルはヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下、“HRW”)に書簡を送り、日本の刑事司法制度の厳しさと人権上の問題の告発を求めた。HRWも、保釈拒否、弁護士不在の取り調べ、家族との面会禁止などを人権侵害と批判し、どんな容疑者であっても許されない扱いだと指摘した。
さらに、検察が自白を引き出すため長時間の取り調べや圧力を行っているとされ、いわゆる「人質司法」への批判が強まった。背景には、日本の高い有罪率と自白を重視する「自白偏重主義」があり、密室での取り調べで自供が強い証拠とされる点が国際的に問題視されている。
諸外国の弁護人立会い制度
諸外国は以下の「国破れて著作権法あり」の図表5.2のとおり、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、韓国で弁護人立会い制度が認められている。
| 国名 | 内容 |
| 日本 | なし |
| アメリカ | 身柄拘束中の被疑者の取調べについて、被疑者の求めがある場合、弁護人を立ち会わせる必要あり(被疑者の権利放棄は可能) |
| イギリス(イングランド及びウェールズ) | 被疑者の求めがある場合、弁護人を立ち会わせる必要あり(被疑者の権利放棄は可能。一定の事由がある場場合は立ち会わせなくてよい) |
| フランス | 予審判事による予審対象者の取調べ及び警察官による被疑者の取調べについて、弁護人立会いの下で、又は弁護人を呼び出した上でなければ取調べ不可(権利の放棄は可能。警察留置中の被疑者の取調べについては、弁護人立会いを一定期間禁止することが可能) |
| ドイツ | 捜査裁判官・検察官による被疑者の尋問・取調べについて、弁護人に立会権あり(ただし、弁護人は、差支えを理由とする期日変更を請求できない。警察官による被疑者の取調べについては、義務付けなし) |
| イタリア | 身柄拘束の有無にかかわらず、取調べの24時間前に弁護人に通知しなければならず、弁護人の要求があれば立ち会わせる義務あり(警察官による被疑者の取調べにおいて、被疑者から自発的申告の聴取を行う場合等の例外があるが、証拠使用に制限を受ける) |
| 韓国 | 身柄拘束の有無にかかわらず、被疑者等の求めがある場合、弁護人を立ち会わせなければならない(ただし、弁護人が取調べに不当に介入するなどした場合、取調官において弁護人を退去させることができる) |
出典:法務省「諸外国の刑事司法制度(概要)」をもとに作成
後藤 昭 一橋大学・青山学院大学名誉教授は「極東の諸国では、韓国、台湾はすでにこれを認めている中で、中国と北朝鮮と日本はそれを認めていません」と指摘している(法務省ホームページより)。
以上から取り調べに際して弁護人の立会いを認めるのは喫緊の課題といえる。
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